前回は、婚姻・離婚した夫婦間での氏の扱いについて説明しましたが、今回は、子の氏を中心とした話しをしていこうと思います。
夫婦が離婚すると、婚姻によって氏を改めた方が、婚姻前の氏に戻るのが原則です(民法767条1項)。これにより、夫と妻は別々の戸籍に入ることになります。他方、子は、両親の離婚による復氏や戸籍編成の影響を受けません。したがって、例えば、母親が子の親権者となって離婚したとしても、母が婚姻前の氏に復した場合、その子の氏は父親の氏のままですし、戸籍も父の戸籍から動きません(戸籍法18条2項)。
そこで、子と氏を異にすることとなった親が子を自分の戸籍に入れたいときには、子の氏を自分の氏に変更する手続が必要となります。
そこで、まず、子が15歳未満であるなら、子の法定代理人(親権者)が子の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、氏変更許可の申立をします(民法791条1項、3項、家事審判法9条1項甲類6号)。他方、子が15歳以上であれば、自分で上記申立ができます。もっとも、いずれの場合でも、子が未成年者であったときには、成年に達した後1年以内であれば、家庭裁判所の許可なしに従前の氏に復することが認められています(民法791条4項、戸籍法99条1項)。自分以外の者や判断能力が十分とは言い切れない時期の自分が選択した氏を、成人となってから事後的に変更する余地を残したわけです。
なお、上記の氏変更審判は、子本人ないし親権者が家庭裁判所に赴いて申し立てれば、即日審判書の交付を受けられるのに対し、弁護士が代理をすると、本人の意思を確認する必要性から、交付まで数日待たされるという違いがあるようです。
また、子の身分変動によって、父又は母と氏が異なることとなった場合には、子の氏を変更することはできません。例えば、子が婚姻して氏が変わったような場合です。その意味で、子の身分変動によらない形で父又は母と氏を異にした場合でなければならないことになります。
そして、父又は母が死亡している場合には、その死亡した方の氏に変更することは、実務上、認められていません(大阪高決昭和49年11月15日等)。
なお、次のような場合、氏変更に家庭裁判所の許可は不要とされています。それは、父又は母が氏を改めたことにより、子と氏が異なることとなったとき、父母が婚姻中である場合です(民法791条2項)。例えば、連れ子のいる母が結婚して氏を改めたことにより、子と氏を異にしたようなときがこれにあたります。
また、子が婚姻している場合、子の氏の変更により、子の配偶者の氏も当然に変更されるのが原則です。夫婦同姓の原則があるからです。もっとも、子の配偶者が婚姻の際に、氏を改めている場合は、例外的に更に変更されることはありません。
ちなみに、以上述べた子の改氏の届出(戸籍法98条1項)は、届出によって初めて効力を生ずる創設的届出にあたります。