最近、だいぶ涼しくなってまいりましたね。
今回は、標題に書きましたとおり、財産分与の合意及び慰謝料の支払い約束が自由意思に基づいたものでないとして無効であるとされた事例(仙台地方裁判所平成21年2月26日判決)を紹介したいと思います。
原告(外国人男性)と被告(日本人女性)は平成6年に結婚し、平成17年に離婚をしました。この間、原告と被告の間には、2人の男の子と、1人の女の子が生まれました。ところで、被告は、婚姻期間中に、2人の男性と肉体関係を持っていました。そのため、離婚の際、原告と被告は、被告名義の不動産を原告に財産分与をするとの合意書を作成し、被告は、慰謝料として2000万円を支払う旨の念書を、原告に対して、交付しました。その後、被告が不動産の名義変更も慰謝料の支払いもしなかったため、原告が、被告にこれらを求めて訴訟を起こした事件です。
さて、判決では、これらの合意書や念書は、原告が被告を自己のコントロール下においた上で作成させたものであり、被告の自由意思に基づいたものではないから、これらの合意書や念書は無効であると判断して、原告の請求を認めませんでした。要は、原告の脅迫によって、被告が完全に意思の自由を失っていたから合意書や念書は無効であると判断したのです。
相手が、不貞行為などをした場合、当然、怒りがこみ上げてくるでしょう。そうすれば、相手を怒鳴りつけ、合意書などを突き付け、書くように要求することがあるかもしれません。これらすべてが、無理矢理書かせたもので、無効であるとなるのかというと、必ずしもそうとは限りません。
あとは程度の問題です。この事案では、原告は、被告の不貞行為を知ってから、被告に対し、感情を自制することなく、繰り返し激しい暴力をふるったり、肉体関係を強要したり、繰り返し金銭の支払いを要求したりしていたようです。金銭の要求を繰り返すのは、やむを得ないとも思えますので、繰り返し激しい暴力を振るったというところを、裁判所は重視したのではないかと、私は思います。
また、念書については、2000万円という大金を、10日以内に支払うという、被告にとって不可能な内容のものであったことも、無効とした1つの理由のようです。不可能な内容であればこそ、脅迫により、やむを得ず書いたものと考えられるのですね。
ですから、離婚の際、相手がどんなにひどいことをしたとしても、ある程度感情は押し殺して、冷静に判断し、話し合いをしていくということが大切ですね。内容は、絶対に不可能というものでないようにしましょう。不可能なものを強要しても、仮に無効とされなくても、相手から履行がなされません。あとは、相手がひどいことをしたという証拠を確保しておくことです。
弁護士 松木隆佳