皆様、こんにちは。
1 イントロ
今回は婚外関係に関するお話です。
例えば、内縁に代表されるように、婚姻届を出してはいないが男女が永続的な共同生活の維持を前提とした関係を形成していることがあります。このような男女関係について法律上、明確な手当は定められておりません。
もっとも、判例上、婚姻関係に類似することから、内縁関係については扶養義務、貞操義務、財産分与等を認めて保護しようという考え方が定着しています(準婚理論と呼ばれています。)。
ところが、近年は内縁関係にとどまず、さらに男女関係の多様化が進んでいます。
それでは、同居しない、子供に会わない、けれどもパートナーシップは継続するという男女関係において不当に関係を解消されたことは果たして保護されるのでしょうか?
2 事案の概要
今回ご紹介する事案は女性が元交際相手の男性へ損害賠償請求を起こした事件です。
女性(以下「甲」といいます。)は大学在学中に交際相手の男性(以下「乙」といいます。)と婚約する間柄となりました。しかし、婚姻に至ることはなく、「特別の他人」として「スープの冷めない近距離に住み」「親交を深める」と関係者らに報告しました。
その後、甲は乙の子供を2人産み、その都度出産費用等の財産的援助を乙の親から受け取っていました。
途中、関係が悪化して甲は乙からの暴行を受けたり、絶交状態が続くこともありました。しかし、他方で乙は大学で研究を続けていた甲の原稿の校正を手伝ったり、住まいの連帯保証人になる等の援助を行い、関係を修復していきました。
ところが、パートナー関係を結んでから15年目にさしかかったところで、乙が当時の勤務先のアルバイトの女性(以下「丙」といいます。)との交際を始めてしまいました。丙も乙と甲の関係を知りながらも結婚したい、と強い決心を示したので、乙は甲に対して、関係を解消して丙と結婚することを伝え、婚姻届を提出しました。
これに対して、甲は乙の一方的な関係解消と丙との結婚によって精神的苦痛を受けたとして、乙に500万円の支払いを求める損害賠償請求訴訟を起こしたのです。
3 裁判所の判断
第1審となった東京地裁は、甲の請求を否定しました。
第2審の東京高裁は、16年間にもわたる甲乙の関係やその他相互に協力し合ってきたこと等から「特別の他人」としてお互いの立場を保持してきたことも認められると評価して、乙に100万円の支払義務があることを認めました。
しかし、最高裁では高裁の判断を覆し、請求を一切認めませんでした(最高裁平成16年11月18日第一小法廷判決)。
理由としては、確かに甲と乙は16年間中で子供を産んだり、助け合ったり、旅行に行ったりするなどの関係を維持してきたが、住居は終始別で、家計も各自で管理していた上、共有する財産もなかった。さらに、子供について甲は出産はしたものの育児を全くすることなく、出産費用を乙側からもらっていること、甲と乙は子供のために出産直前に婚姻し、出産直後に離婚することを繰り返していますが、裏を返せば婚姻すること自体を意図的に回避していたと評価しました。その上で、甲と乙はお互い以外の相手方と婚姻をするなどして、両者の関係を離脱してはならないという合意が形成されるまでには至っていないと判断しました。
したがって、甲に対して法的に保護するべき利益が見いだせないとして、最高裁は乙の請求を棄却したのです。
4 最後に
事案を見る限り、甲と乙は特別な男女の間柄であるということは差し支えないでしょう。子育てを回避するとはいえ、出産にまで至ることは普通の恋人同士といった男女関係とは一線を画するのではないかという見方ができると思います。
他方で、甲乙間の関係は婚姻関係とも異なっていることもまた否定し難いです。同居はしない、子供は育てない(2人の子のうち1人は施設に預けられました。)、財産や家計は全く別。日本の伝統的な夫婦の在り様からすると、特殊であると言わざるを得ません。
このため、内縁のように、実態は婚姻関係そのものであるにも関わらず婚姻届を出していないために法的な保護が受けられない、という不合理に感じられるケースとも一線を画するため、損害賠償は認めなかったのでしょう。
しかし、裁判所が何を婚姻関係の主たる要素と見るべきかは明らかではありません。事案を個別具体的に検討し要保護性に応じた保護を施すべきであるという見解も出ていますが、実務上は内縁関係あるいは婚姻予約があった場合以外に不当破棄に対する保護を受けることは難しいでしょう。
日本は届出婚主義を採用しているので、婚姻届を提出するかしないかで法的保護に大きな違いが出ます。
もっとも、婚姻関係にある男女でも在り方が多様化しており、別居婚(通い婚を含む)、週末婚、性的関係を持たない婚姻関係などは聞いたことがありますので、形式さえ守れば何でもアリなのか?という疑問が残ります。今回紹介の判例を見る限り、裁判所としてはどの点を理由に法的保護を認めるか画一的基準を見出すまでには至ってはいません。
婚姻観の多様化のみならず、近時の選択的夫婦別姓制度の議論もあいまって、婚姻とは何か?という問いが世に放たれたという印象があります。
それぞれにとってのスープの冷めない距離は質的にも量的にもバラバラです。しかし、いつかそれがわかる日がくることを期待しています。
今回もお付き合いいただきありがとうございました。