皆様、こんにちは。

1 今回も養育費に関するお話です。

 通常、別居後離婚前の時期にはお子さんを監護している方は他方配偶者に対して婚姻費用の支払いを求めると思います。

婚姻費用はお子さんの養育費に加えて他方配偶者の生活費も含めて算定されています。支払額や支払方法を決めるには、相手方と直接交渉する、若しくは裁判所へ調停や審判を申し立てるといった方法をとります。

 それでは、別居後離婚するまでの間に発生した養育費だけの支払いが認められることがあるのでしょうか。

2 監護費用という概念

 離婚後お子さんの生活や学業を支える費用のことを養育費と呼んでいます。これは親権者に指定された人に対して支払われます。

 これに対して、離婚前の間の養育費の部分を監護費用と呼ぶことがあります。内容自体は実質的に養育費と変わりありません。

3 監護費用を求める理由

 前記のとおり離婚前は婚姻費用を求めれば監護費用も込みで支払いを受けることができるわけですから、わざわざ監護費用だけを求める必要はありません。

 もっとも、経済的能力等の兼ね合いからでしょうか、夫婦間の紛争の本丸といえる離婚訴訟で何とか離婚を認める判決だけは取りたいということになると、取り急ぎ夫婦関係調整調停→離婚訴訟へ進めることもあるでしょう。

 婚姻費用に関する手続は裁判所では別事件の扱いとなりますから、離婚の件とは別に申立てを行わなければなりません。

 ところが、とにかく離婚したいということで手続を進めて、今まで発生しているはずの婚姻費用を請求してこなかった場合、婚姻費用は離婚訴訟においては原則として検討の対象とはなりません(財産分与の申立てをしているならば、未払いの婚姻費用の主張をすれば分与額の算定の際に加味してもらえることはありえます。)。

4 具体的事例の紹介

 それでは監護費用という名目ならば裁判所で審理をしてもらえるのか、判例を紹介しながらご説明します。

 お子さんの妊娠中に別居を開始し、出産後、夫に対して離婚訴訟を提起したというケースがございました。この訴訟の中で、妻側は監護費用、すなわちお子さんが産まれた時点から離婚時までの監護に要した費用の分担を求めました。もっとも、監護費用が離婚訴訟で検討対象に含まれるか否かで裁判所の判断は揺れました。

 最高裁判所は、民法771条、766条1項が類推適用されて、離婚の請求を認容する際には監護費用も審理判断しなければならないと結論づけました(最高裁第二小法廷平成19年3月30日判決、同第一小法廷平成9年4月10日判決参照)。すなわち、一緒に検討の対象とすることになったのです。

 「類推適用」という耳慣れない言葉も出てきましたが、その点も含め、最高裁の判断の理由についてご説明します。

 そもそも、別居を開始した時点で夫婦が共同してお子さんの監護を行うという前提が崩れます。しかし、前記のとおり夫婦は共同親権となっており、親権者はお子さんの扶養義務を負っています。そうすると、離婚前であってもお子さんを監護していない配偶者は、お子さんを監護している配偶者(監護者)に対して養育費(監護費用)を負担すべき状況にあるといえます。

 そして実際上、お子さんに対して監護費用の支払いを認めることが、養育における資本を提供されるという意味で、お子さんの利益に適うことは明らかであるので、最高裁は別居後離婚前までの監護費用も一緒に審理するべきだと考えています。

 「類推適用」と謳っているのは、上記の条文が離婚「後」のお子さんの監護に関する事項を協議しなさい、と指示するにとどまっているからです。すなわち、本件のように離婚前の話はこの条文の本来的なケースにはあたらないので、裁判所が類似点を引っ張ってきて「類推」できるから同じように扱うとしたのです。

5 最後に

 そもそも、生活が苦しい状況でならば、依頼を受けた弁護士はまず、婚姻費用分担の話を早急にまとめる方向で動きます。

 交渉がダメでも、離婚と婚姻費用両方の調停を申し立てて、一緒に協議していくことが出来ます。もっと急ぐのであれば、婚姻費用については仮処分の申立てを行って、ひとまず暫定的な金額だけでも先に払ってもらうように仕向けることが可能です。

 このように別居後の養育費等の支払いを求める手段はきちんとありますので、ぎりぎりまでお一人で悩みながら手続を進めようとするより、弁護士に相談・依頼して迅速に生活費の回収に動く方が得策です。

 今回は、婚姻費用等の請求をし損ねていて、かつ、離婚訴訟で財産分与の申立てをしていなかった場合でも、離婚訴訟の中で過去の監護費用の支払いは主張しておけば何とかリカバリーできる、というお話です。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。