前回のblogでは、内縁の不当破棄についてのお話がありました。内縁関係が認められる場合、婚姻関係に準じた色々な法的救済があり、関係の不当破棄については慰謝料が発生するという内容でしたね。

 そこで、今回は私からも、内縁の不当破棄に伴う慰謝料と税金についてお話させていただきます。

 過去の私の記事のなかでも書いたことがありますが、慰謝料というのは精神的損害に対する賠償金のことで、平たく言うと、不法行為によって心を傷つけられたことに対するお詫びのお金です。 慰謝料を渡す側についていえば、お金そのものや金銭債権の形で渡す場合には、譲渡所得の起因となる資産の譲渡がなされたとは認められないので、所得税がかかりません(不動産や株券等を渡すことで慰謝料とする場合には、損害賠償債務の消滅を対価とする資産の譲渡にあたるとして所得税課税の余地があります。)。

 また、慰謝料を受け取るほうはどうかというと、「損害賠償金で、心身に加えられた損害に起因して取得するもの」として、所得税が課税されません(所得税法9条1項17号後段、同法施行令30条)し、贈与税等も課税されません。

 これは、離婚による慰謝料でも内縁の不当破棄に伴う慰謝料でもあてはまる、法律レベルの原則です。

 では、この原則に自分があてはまっていることを、税務署にどう説明するのかというところが大きな問題です。

 離婚した元配偶者間では、税務署に対し、「これはお金のやり取りがありますが、離婚に伴う慰謝料なので非課税です。」と説明するのは簡単です。詳しい説明を求められた際には、相手方の一筆、離婚歴が記載された戸籍抄本や離婚届受理証明書と振込記録や預かり証などをつけて主張すれば、納得してくれる税務署はそれなりに多いでしょう。

 しかし、内縁関係は、そもそも婚姻していないのですから戸籍には登載されません。

 内縁も何もないふつうのカップルないし友人がやり取りした、単なる贈与ではないのかと疑う税務署を説得する材料を集めるのは、非常に難しいでしょう。

 たとえば内縁の相手方と長年同居していた居宅における公共料金の支払明細の名宛人や、結納金の預かり証等を集めてみても、それで税務署が納得できるという確実な根拠はありません。そもそも結納金を交わしていない等の事情もあり得るでしょうし、税務署を説得しきれないことは想定しておくべきです。

 国税不服審判所の平成16年12月8日裁決の事例(平16.12.8名裁(諸)平16-41・争点番号400402031)は、内縁関係の破棄について相手方から慰謝料を受け取ったことから、原則に従い課税されないものだと思い込んでいたところ、贈与税が課税されたという件です。

 この件では、内縁関係解消の慰謝料として受け取ったお金であるという審査請求人の主張は通らず、贈与税課税の結論は覆りませんでした。この件では、そもそも内縁関係が成立していたとは認められないとされたのです(なお、仮に贈与だとしても養育費等のために費消したお金なので非課税、という主張も通りませんでした。)。

 内縁も何もない普通の2人の間で金銭等何らかの財産がやり取りされたとき、やり取りを支える債権債務関係があれば(渡す側について)譲渡所得課税の問題に、特にないのであれば(受け取る側について)贈与税の問題になります。

 内縁の不当破棄に伴う慰謝料は課税されない、という原則に従うためには、まず内縁の成立につき、税務署や国税不服審判所を説得することが必要です。
 内縁の破棄・解消について、私たちには経験があります。お悩みの際には、ぜひご相談ください。