裁判所の判断
抗告審である東京高等裁判所は、原審の判断を取り消し、母親側の申立てを却下しました(東京高等裁判所平成24年10月18日決定・判タ1383号327頁)。
その理由を大まかに説明しますと、裁判所は、子の引渡し(強制執行による方法も含む)がなされる場面は、今回のような保全処分をはじめ4回程度生じることが予想されるところ、裁判所の判断で、お子さんが何度も行ったり来たりするようなことがあるとその度にお子さんが精神的に傷ついてしまうので、慎重に考えなければならないとの一般を示しました。
そして、「監護者が未成年者を監護するに至った原因が強制的な奪取又はそれに準じたものであるかどうか、虐待の防止、生育環境の急激な悪化の回避、その他未成年者の福祉のために未成年者の引渡しを命じることが必要であるどうか、及び本案の審判の確定を待つことによって未成年者の福祉に反する事態を招くおそれがあるといえるかどうか」について検討し、「未成年者について引渡しの強制執行がなされてもやむを得ないと考えられるような必要性があることを要する」と一応の判断枠組みを示しました。
本件の場合、お子さんを奪取したわけではなく、お子さんが「パパがいい」と言って母親の許へ帰りたがらなかったとの事実認定がなされているため、母親による保全処分の申立ては否定されてしまったのです。