一定の養育費の支払義務が調停や審判によって定められた場合であっても、義務者の中には全く支払わない人もいます。

 その場合には、権利者はどのような手段を用いることができるのでしょうか。

 金銭債務の履行がなされない場合には、一般的には強制執行によって回収します。例えば、勤務先等の給与債権を差し押さえて、直接ここから回収する手段です。

 ただ、義務者の勤務先が不明な場合や、強制執行という強引な手段を採ることをあまり望まない場合もあるでしょう。

 より簡便な手続としては、次のようなものがあります。

 まずは、履行勧告(家事事件手続法289条)です。履行勧告とは、義務者が取決めを守らないときに、家庭裁判所に対して履行勧告の申出をすると、家庭裁判所が、義務者に取決めを守るように説得したり、勧告したりする制度です。

 ただし、義務者が当該勧告に従わなかったとしてもなんら制裁はありません。

 次に、義務者に制裁を加えられる制度としては、履行命令(同法290条)があります。

 これは、家庭裁判所が審判によって、義務者に対して義務の履行を命じるものです。履行勧告と同じく家庭裁判所に対する申立が必要です。

 正当な理由なく当該命令に従わない場合には、10万円以下の過料に処せられます。

 これらの簡便な手段によってまずは様子を見ることも有効でしょう。

弁護士 吉田公紀