皆様、こんにちは。

1 イントロ

 当法人のブログでも適宜紹介されているかと存じますが、お子さんの引き渡しを求める方法として人身保護請求という手続がございます。

 最近は、家庭裁判所における子の引渡しの調停や審判という方法が取られることが多くなっていたり、人身保護請求における引き渡しに強行的な側面があることから、いきなり使われる、ということは少ないようですが、どのようにして使うことができる方法なのか、簡単にですがご紹介します。

2 制度の変遷

 人身保護法自体は、公権力又は私人によって不法に拘束を受けた人を迅速に開放するために設けられた制度でした。その中の一つして、別居中の夫婦間における子の引渡しで使うことが定着して、昭和から平成の序盤まではこの制度を利用する傾向の方が強かったようです。

 ところが、後記の要件の話にも関わるのですが、最高裁判所が人身保護請求の要件の解釈について制限的にとらえるようになったことで、上記のとおり家庭裁判所の手続に流れていくようになったのです。

3 実体要件

 それでは人身保護請求が認められるための要件とは一体何なのでしょうか?

 人身保護法や人身保護規則に書いてあるのですが、お子さんの引き渡しのケースとして要約すると、①お子さんが拘束されていること、②①の拘束が違法であること、③②の違法性が顕著であること、④救済の目的を達成するために他に適切な方法がないこと、が挙げられます。

 要件の①の意味はそのものずばりのもの多いので、本稿では割愛します。

 ②及び③の要件ですが、少しわかりづらいかもしれません。どういうものが違法で、かつ違法性が顕著であるといえるのか、上記2で言及しました最高裁の解釈は次のようなものです。

 最高裁は「拘束者が用事を監護することが、請求者による監護に比して子の福祉に反することが明白であることを要する」と解釈しており(最判平成5年10月19日民集47巻8号5099頁)、『明白性の基準』と呼ばれています。少し雑な言い方になりますが、お子さんの連れ出し方に多少の違法性があったとしても何でも間でも人身保護請求を認めるわけではなく、お子さんの監護状況なども勘案して、やはり連れ出したのはよろしくないといえる時に認めます、というように捉えられます。

 その後、最高裁判例(最判平成6年4月26日民集48巻3号992頁)では、次のようなケースで明白性ありと判断しています。㋐拘束者に対して幼児の引き渡しを命ずる仮処分又は審判が出され、その親権行使が実質上制限されているのに拘束者が仮処分に従わない場合、㋑幼児にとって請求者の監護の下では安定した生活を送ることができるのに、拘束者の監護の下においては著しくその健康が損なわれたり、満足な義務教育をうけることができないなど、拘束者の幼児に対する処遇が親権行使という観点からみてもこれを容認することができないような例外的な場合、を想定しています。

 ①は家庭裁判所の仮処分や審判が出て、監護者が決まって、子の引渡しが求められているにもかかわらず、拘束している方の親が従わない場合を指しています。②は①以外でも、お子さんの監護内容として例示されているような決定的な欠陥がある場合には人身保護請求を認めます、という意味です。

 また、非親権者や非監護者による拘束の場合には、明白性の基準によらずともよいと捉えられるような判断も出ています(最判平成6年11月8日家月47巻6号26頁)。

 なお、要件④についてですが、引き渡しに関するその他の方法、例えば、交渉や直接強制などの手段が不奏功に終わった場合など、他の方法で上手くいかなかった事実などがあると認められ易いでしょう。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。