皆様、こんにちは。
1 イントロ
今回は面会交流の審判例をご紹介しつつ、面会交流(の調停や審判)で争われる点についてお話しします。
2 事案の概要
今回ご紹介するのは、東京高等裁判所平成25年7月3日決定(判例タイムズ1393号233頁)です。
手続的には夫婦関係調整調停が係属している最中に父親側からお子さんとの面会交流調停の申し立てがあったことを端緒に始まった模様です。母親側が面会交流の実施そのものに消極的であったため、調停は不成立となり、審判手続に移行しました。しかし、母親側は家庭裁判所での審判に納得がいかず、面会交流を実施すべきでないとして、東京高等裁判所へ抗告をした事案です。
家庭裁判所での審判は、一定の内容の基に面会交流を実施するようにとの内容でしたが、東京高裁は原審判を取り消し、審理を家庭裁判所に差し戻すという判断をしました。
本件では、まず、母親側が面会交流を実施すべきでないと主張し続けていたことから、面会交流をすべきか否かという点が争点になっていました。また、仮に面会交流を実施するとして、前審が定めた面会交流の実施方法でいいのか、という問題もありました。
詳しくは次項でみていきましょう。
3 裁判所の判断
(1) 面会交流をすべきか否か
家庭裁判所も東京高等裁判所も面会交流は実施すべきであると判断しました。
母親側が面会交流を実施すべきでないと考える理由は、大まかにまとめますと、
① 父親側による連れ去りの不安
② 別居先の住所を知られることへの不安
③ 父親と子が会った時に父の言動が子に悪影響を与えると懸念されること
④ 母親が父親に対して恐怖心があり、面会交流の送り迎えの際に直接会ってやりとりすることはできないこと
でした。
これらの主張は、夫婦関係で揉めた時に母親側が持つ感情としてはわからなくもないのですが、面会交流を拒否する理由としては苦しいものがあったように感じます。裁判所は、上記①、②、④の理由については母親が持つ恐怖感の話であって、父親が子に暴力を振ったから恐怖心を抱いている、というようなお子さんと父親との関係の問題でないことから一蹴しました。また、③の理由については証拠が足りないという理由で取り上げませんでした。
実は家庭裁判所での審理の中で、家庭裁判所調査官がお子さんに父親と会いたいか否かについて意向を確認する調査を行っておりお父さんが会いたいと言ったらどうするかというような問い合わせに対して、「がんばっていく」と答えたようです。ですが、その調査の翌日母親から裁判所へ電話があり、お子さんが母親に「会いたくないのに会いたいと答えてしまった」として泣いてしまった等のクレームを付けられた、という経緯があります。
しかし、東京高裁はこの点について、お子さんが両親双方に対する感情があり、忠誠葛藤が生じている状況だと指摘しました。東京高裁は、お子さんに同居の母親に対して裏切れないという気持ちがあるものの、調査官に「がんばっていく」と答えたことはお子さんが本心から面会したくないとは思っていないと評価したのです。
(2) 実施方法の問題について
面会交流をすべきであるとの判断そのものは原審の家庭裁判所も同様でした。それでは、原審を取り消したのはなぜでしょうか。
東京高裁は面会交流の実施方法について裁判所が十分に調査をしていなかったと評価しました。原審は面会交流を実施すべきとの判断の下、面会交流の実施方法についても定めましたが、母親側が主張していたように、直接会って送り迎えをすることができるのか否か等の問題が残っていたのです。
しかし原審が面会交流の実施方法を決めた根拠となるような情報がないと指摘されており、調査不足と評価されています。その結果、原審を担当した家庭裁判所にもっと詳しく調査をさせるために差し戻しの判断をしたのです。
東京高裁は、お子さんが通っている(通っていた)幼稚園や小学校を調査して、お子さんの言動を比較検討することで、父母への葛藤の影響を検証できたのではないかと指摘しています。
4 まとめ
面会交流では、まず面会交流をするかしないかで揉めることが度々あります。その時は必ず、面会交流をすべきでないと考える理由が求められますが、お子さん本人ではなくお子さんを監護している方の親の希望だったりすることもあります。お子さんの発育のための制度なので、親の感情で左右されるべきものではないのですが、この感情が、お子さんが会いたくないと言っている、という別の形で反映されているように思えることもまたあるのです。
本件はこうしたケースに当てはまるように思いました。加えて言うならば、母親の感情がかなり前面に出ていたので、お子さんの中で父親に会うか会わないかをめぐって強い葛藤を抱いていることがクローズアップされた印象があります。
実施方法の点については、原審の家庭裁判所の調査が不十分だったと言い切れるかどうかというと、何ともいえないところがあります。おそらく、母親側の面会させたくないという意向が強かったので、面会交流のやり方について意見を聴取することができず、裁判所の判断で決めてしまったのではないかと想像します。
調査官の報告書には面会交流を実施すべきとの意見が書かれていたのではないかと思いますが、当事者自身がそこに納得いかないと言い出すと、調査官だけでなく担当の審判官(裁判官)も実施方法の話にまで立ち入れなかったのだろうなと思います。
ただし、母親側からは父親による暴力の主張があり、お子さんには影響なかったとしても、面会交流のやりとりの際に考慮すべき事情としてもう少し気にしてもよかったように思いました。その意味では、東京高裁の判断は結論としては妥当だったと思いますし、母親の面会させたくないという感情が強い事件では差し戻しも致し方なかったようにも感じます。
最後に、母親側は抗告審で自判(≒自ら結論を判断すること)を求めていたことに対して、結論的には東京高裁からは遠いので近くにある原審の家庭裁判所で審理を進めた方がいい、というお断りの回答がなされているのですが、家事審判規則における調査権限の違いを持ち出しながら、調査日程等の調整が容易だから、当事者の負担が少ないから等の理由をしっかり説明するあたり、さすが裁判所だなあと感じました。率直に面倒だとはいえないのですね。
今回もお付き合いいただきありがとうございました。