1 探偵というお仕事

 探偵さんのお仕事って、実は、弁護士が普段やっている仕事とかなりかぶっているって知ってましたか?

 例えば、不貞行為の相手方を訴えるために、住民票を追いかけて、相手の居場所をつきとめたい場合、探偵会社・調査会社に問い合わせる人って、けっこういるんです。

 というか、普通、探偵会社に問い合わせをします。

 でも、実はこれって、弁護士の仕事なんです。弁護士業界では、これを「職務上請求」と呼んでいます。

 もし探偵さんが、相手の住民票を追いかけようとしたら、正直、違法な手段を使わないと、そのような情報を入手できません。

 例えば、市区町村の職員に賄賂を渡して、情報をリークしてもらうとか…。

 弁護士に頼んで、住民票を入手している探偵さんもたくさんいるようです。

 これが適法かというと、やっぱり違法です。

 弁護士の職務上請求は、探偵さんのご商売を助けるためにあるわけではないからです。

 でも、これも多分、多くの探偵さんが弁護士と組んでやってるでしょうね。

2 浮気調査と尾行

 弁護士に住民票や戸籍謄本の入手など、職務上請求権が認められているのは、交渉や訴訟などに役立てるための証拠を入手する必要があるからです。

 紛争解決のためには、ある程度の証拠が要ります。

 とすると、証拠収集活動も弁護士の付随業務の一環ですから、浮気調査の尾行だって、弁護士事務所がやってもよさそうです。

 でも、浮気調査の尾行をやる弁護士事務所はないと思います。

 多分、今後も出てこないでしょう。

 それはなぜかというと、弁護士業界には「弁護士倫理」というのがあって、尾行が違法でないとしても、弁護士がやるには”品がない”ということで、弁護士会から待った!がかかる可能性が大きいからです。私たちの業界って、信じてもらえないかもしれませんが、”お上品な業界”なんです(笑)。

 ここで、探偵会社の出番がくるんです。

 言い方は悪いですけど、お上品な仕事は弁護士がやり、品がない仕事は探偵さんにやってもらう、みたいな棲み分けが出来ちゃったんです。

 人を訴える弁護士の仕事がお上品かどうかは議論の余地があると思いますけどね(笑)。

3 悪徳探偵会社の跋扈

 ここで問題が起こります。

 もともと探偵さんが”品がない仕事”を引受けちゃったから、品がない仕事に手を出すことにブレーキが働かなくなっちゃったんですね。

 そして、探偵さんが浮気調査を始めたことにより、お客さんたちには、

 調査=探偵の仕事

 という誤解が産まれ、本来弁護士がやる職務上請求のような仕事まで、探偵会社に依頼するようになってしまったんです。

 本当は、探偵さんはやっちゃいけない仕事なんですが、元々、仕事の品位を意識していません。

 「せっかく依頼されてるんだし、ビジネスチャンスだからやっちゃえ!」

 となり、違法なビジネスに手を出してしまう。

 そして、この”品位なき仕事”に拍車がかかり、最後には、この品位のなさは、お客様に対する不誠実さとなって現れます。その結果、

 探偵業界=怪しい業界

 という認識になってしまい、弁護士は、益々この業界と一線を画するようになっていく…。

 このようないわくつきの業界ですから、その中から良心的でまともな会社を選別するのは至難の業です。

 私も法律相談で、よく相談者から「どこか良い探偵事務所を紹介してもらえませんか?」と聴かれるのですが、そんな時は決まって、

 「もうしわけない。ご自身で探してください」

 というのが私の回答です。

 確信もないのに下手なところを紹介し、後でその相談者と探偵会社がトラブルになったら、私も巻き込まれてしまうからです。

 そんな理由で、昔は、探偵会社と提携を結ぶ弁護士なんていませんでした。

 でも、最近は、弁護士業界も競争が厳しく、探偵会社と業務提携を結ぶ弁護士が急増しています。お互いが手を組んで仕事の融通をしあえば、双方のメリットとなるからです。

 弁護士は、探偵さんに浮気調査の仕事を紹介し、探偵さんは、弁護士に離婚案件を紹介できるからです。

 しかし、だからといって、私も他の弁護士と同じように、怪しい探偵会社との業務提携に踏み切れません。

 こんな背景があって、弁護士法人ALGは、探偵会社と手を組むのではなく、”自ら探偵会社を作る”という方法を選んだんです。

 自分たちが作った会社であれば、その会社を管理できる。違法なことをしないように、監督することもできるわけです。

 弁護士が探偵会社と提携を結んでも、他人の会社ですから、管理も監督もできません。

 結局、お客さんを紹介し合うという利害しかないんです。

 弁護士と提携を結んで怪しさをカモフラージュしている探偵会社も増えてますから、浮気調査のお客さんたちにとって、益々、まともな探偵会社を選別するのが難しい時代になってしまいました。