皆様、こんにちは。

1 イントロ

 昨年家事事件手続法(以下、本稿では「法」といいます。)が施行されて既に1年が経過しました。

 今回は同法が適用されてからの変化について、感じたところを幾つかお話しします。

2 申立書の写しの送付

 施行前は案件によりけりだったのですが、現在は調停事件や審判事件の申立書を相手方に送付することになっております(法67条1項、同256条1項)。この制度の狙いは、事前の申立人側の請求や主張の内容を相手方に把握してもらって準備をしやすくすることで、第1回期日のやりとりの内容を充実化することにあります。

 調停、審判の申立てを受けましたというご相談客への対応の際に、とりあえず申立書の写しを拝見させてもらうことで、そこに書いてある範囲にはなりますが相手方の考えを説明しやすくはなりました。

 ただ、申立書にあまり詳しい内容が書かれていない(敢えてそうしている可能性もあるかもしれません)こともありますので、何もかも準備ができるわけではない、という所感もあります。

 後記4にあるように、他に裁判所へ提出されている書面について、閲覧、謄写を求めることで内容を確かめる方法も考えられますが、調停から審判に移行したり、離婚事件のように調停不成立の後に裁判となる場合、後から詳細な主張が出てくることが多いので、調停の段階で急ぐ必要性があるか否かで対応が別れるような気がしています。

3 電話会議

 個人的には、家事事件手続法の施行により最も変化を感じるようになった点かもしれません。

 申し立てる事件の内容によって、管轄する家庭裁判所が決まってくることがあるのですが、施行前までは、相手方やお子さんの住所地にある裁判所が管轄の裁判所で、遠方だったりすると直接行かなければなりませんでした。そのため、申立てがなかなかできない、ということもあったと思われます。

 現行制度では電話会議システムの利用が可能になって、遠方の裁判所までわざわざ出向かなくても電話で参加できるようになりました(法54条、同258条1項)。これによって、先程のケースの他に、ご依頼者の住所地の裁判所で手続を進めるけれども遠方である場合にも、代理人が手続に参加できるようになり、進めやすくなった印象があります。

 ただ、調停事件では話の流れや場の雰囲気を感じ取りながら発言を考えることもあるのですが、電話会議の方法だと調停室の雰囲気をイメージするのに限界があるように思います。

 また、調停、審判事件どちらも、行くべき期日、行かなければならない期日があります。全て電話会議で済ませられるとは限らないと常々注意する必要があるでしょう。

4 資料の取り扱い

 裁判所に提出する資料については他方当事者にもわたすようになりました。証拠の取り扱いについては民事訴訟法と民事訴訟規則の規定が準用されているので(法64条1項、同258条1項)、正式な証拠として提出する場合には裁判所から他方当事者へ提出するように必ず言われます。

 ところで、当事者には非開示の希望の申し出ができることを案内されるようになっています。これは調停や審判事件の当事者等が、裁判所が綴っている事件記録について、裁判官の許可があれば閲覧、謄写の申請ができる(法47条1項、同条3項)ところ、例外として一定の事由に該当する場合には許可しなくてもよいようになっている(法47条4項)からです。

 整理しますと、証拠としてではなく事実上の資料として裁判所に提出されたものでも、記録の中に綴られているものは、事件の当事者等は原則として閲覧や謄写をすることができますが、裁判所が先程の「一定の事由」にあたると考えるものは閲覧、謄写の許可をしない、という仕組みになっております。

 すなわち、証拠ではないけれども、裁判所にだけ見てもらいたい(かつ、相手方にはみられたくない)資料が提出されてくる余地が出てくるのです。

 施行前も、こういう事実上の資料を提出すること自体はやられていたようですが、制度化されたことによって、裁判所から「非開示の希望に関する申出書」が渡されるようになりました。相手方から出された資料が全てとは限らず、裁判所限りで提出されている資料が存在する可能性を今までより意識するようになりました。

 ただ、調停や審判のご相談に来られる方の質問でよく聞くのは、「非開示の希望の申出書」が何なのかよくわからない、というものです。制度として馴染むのにはまだ時間がかかるかもしれません。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。