皆様、こんにちは。
1 イントロ
夫婦をめぐる問題のうち、どなたがお子さんの監護をするかという問題は割と浮上しやすいものの一つだと思います。
現行の制度によれば、例えば別居した夫婦のうちどちらがお子さんの面倒をみる(=監護をする)かについては、お互いの合意が得られなかったとしても、家庭裁判所での手続を通じて決めてもらうことができます。離婚前の時点ならば調停や審判によって監護者を指定する方法、離婚時ならば調停、審判あるいは訴訟によって親権者を指定する方法が挙げられます。
しかしながら、監護をすべき者を決めたとして、元々その者の許にお子さんがいれば引き続き監護をしていけばいいだけの話ですが、他方配偶者の許にお子さんがいる場合もあります。
今回は、このような場合のお子さんの引渡しについて、やや慎重に過ぎるかもしれませんが、留意点をご紹介します。
2 任意による引渡しの限界
上記に挙げたような裁判所の手続で監護者あるいは親権者を定めたとして、その後にお子さんをいつ、どのような形で引き渡すかについては当事者の協議(話し合い)に委ねる、というアプローチがありえます。
当事者の方が細かな状況を把握しているので、お互いで引き渡しの段取りを詰めてもらう方が第三者が介入するよりも手っ取り早いだろう、といった現実論といえます。並行して夫婦間の紛争が続いているかもしれませんが、そこは当事者に大人の対応を期待する方法です。
そのため、このようなやりとりでさえも揉めてしまうようであれば、とても採用できません。
裁判所のスタンスも、一から当事者に任せるというよりは、例えば、離婚訴訟のように紛争性の高いものでは、和解による終結を迎える場合であっても引渡し時期を定めたりしています。
3 強制執行による方法をめぐる変化
(1) 裁判所に監護者や親権者を指定してもらった際、自分の許にお子さんがいない場合にはお子さんの引渡しも求めていることが多いので、大抵の場合には同時に引渡しの請求も裁判所に認めてもらっています。
ですが、上述したような話し合いで引き渡してもらえるとは限りません。先のように細かな段取りが決まらないこともありえますが、特に監護者を定めるケースではその後の離婚紛争における親権者争いを見据えてなのか、直ぐに引き渡そうとしないケースが多いのではないかと思われます。
そのため、任意の引渡しが期待できない場合、弁護士が次に考える手段は、お子さんの引渡しを強制執行で行うことです。
昨今はインターネットで様々な案内サイトがあるのでご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、裁判所(なお、この手続を執り行うのは地方裁判所です。)を通じて、お子さんの引渡しを執行官に行ってもらうことが可能です。
現行制度の在り方については諸説争いがあったりしますが、本稿では割愛いたします。(2)ところが、ここでも問題があります。執行官は強制執行の申立てに基づいてお子さんの引渡しを受けに行くことができますが、お子さんを無理矢理引っ張ってくることまではできないのです。
お子さんの引き渡しの方法について、近時は慎重論が強いようです。最高裁判所では公道や保育園での引渡しはせずに自宅で行う等の引き渡し際の注意点を各地の裁判官や執行官に通知したという報道がありました(平成25年8月7日付け日本経済新聞電子版)。
最高裁判所がどのようにルール化しているのか、恥ずかしながら公式に発表された媒体が見つけられないでいて個人的に困っているのですが、この報道の後にお子さんの引渡しを求める強制執行の申立てを行ったところ、担当の執行官から打ち合わせの際に上記のような通知があったことをほのめかされたので、既に影響が出ているとみてよさそうです。
(3)実際に難しいなと感じるのは、先程申し上げたように執行官は家庭裁判所ではなく地方裁判所に所属している方であり、家庭裁判所調査官のようにお子さんとの接触に慣れている方とは限らないということです。
執行前に執行官と面接して当日の段取りを打ち合わせたりするので、申し立てる側もその中で色々と情報提供をして、お子さんへの接し方について配慮をしていただいたりするのですが、その結果、いい大人が何人も集団で赴いてお子さんを萎縮させる結果に終わってしまう、なんてことになってしまうかもしれません。特に意思が芽生え始めたくらいのお子さんのケースは、お子さんにとって引き渡しを受けることが客観的にプラスであっても説得が難しく、また本人の気持ちをおざなりにしきれない難しさがあるように思います。
お子さんが強く拒めば前記のとおり無理やりに引き渡しを受けることまではできず、「執行不能」で終わってしまうこともあり得えます。強制執行の手続には申立て側も立会いができますが、お子さんの気持ちをほぐすような方法を考える等、色々な工夫を講じる必要があると思います。
今回もお付き合いいただきありがとうございました。