1 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律案の可決

 平成25年6月12日「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律案」が下越され、同16日に公布されました。

 これは、要するに、表題の「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(以下、「ハーグ条約」といいます。)を比準した際の、日本国内で実施する際の手続を定めた法律だと考えて大きな間違いはありません。

 現状、施行日は「条約が日本について効力を生ずる日」とされているため、条約の批准との関係で、この法律が効果を生じる日が決まることになります。

 さて、平成23年にハーグ条約の批准が閣議決定されてから、ずいぶん時間が経ってしまいましたが、この度、法案が可決されたことから、現実に運用が始まるまでそう長い時間はかからないと思われます。

 そこで、今回は、ハーグ条約の概要についてご説明しようと思います。

2 概要

 ハーグ条約は、以下のような事例の場合に活躍します。

【事例】
 日本人XとアメリカYが結婚し、Aという子どもが生まれました。XとYは日本で生活していたが、その後残念ながら別居に至り、その際、監護権(現実に子どもを育てる人だと考えてください)を、Xにする旨の調停が成立しましたが、YはXに無断で、Aを連れて勝手にアメリカに帰国してしまいました。

 さて、Xは子Aを取り戻すことができるでしょうか。

 この場合に、監護権を有する親Xは、ハーグ条約に基づいて、日本又はアメリカの中央当局(日本では、外務大臣とされています。)に対して、子の返還のための支援を申請することができます。

 そして、ハーグ条約には、子の返還命令の義務が課されない例外の場合を除き、締約国の司法当局などは、子が不法に連れ去られ、または、留置されている場合には、子を本の常居所地国に返還するよう命じなければならないとされています。

 これによって、子の奪い合いに関する紛争を、最終的には、子の常居所地国で解決されるようにしています。

 上記、「子の返還命令の義務が課されない例外の場合」として、ハーグ条約では

① 連れ去りから1年以上が経過し、子が新たな環境に適合している場合
② 連れ去り、留置の時点で、親権者が監護の権利を現実に行使していなかった場合、または、申請者が連れ去り・留置についての事前の同意もしくは事後の承認をしていた場合
③ 返還することによって、子が身体的もしくは精神的な害を受け、または他の耐え難い状態に置かれることとなる重大な危険がある場合
④ 子が返還を拒み、その子が違憲を考慮するに十分な年齢・成熟度に達している場合
⑤ 子の返還が、要請を受けた国の人権および基本的自由の保護に関する基本原則により認められない場合

が定められています(今回可決された法律案でも、同じ事由が列挙されています(同法28条))。

3 手続概要

 上記事例で、申請がなされた後は、子が現に所在する国の中央当局で申請書類が審査されます。その後、子の所在の特定がなされ、中央当局により、任意の返還による問題か行けるの促進がなされます。それでも返還がなされない場合には、裁判所による判断がなされ(返還命令か返還拒否)、最後に中央当局により子の安全な返還が実施されます。

4 結語

 今まで、ハーグ条約が批准されていないことから、日本人が子を連れて日本に渡航することが外国裁判所に許可されないといった事例も存在しました。

 ハーグ条約の批准により、そのような事態は解消されると考えられます。

 そして、子の奪取の紛争に関して、新たな解決手段が提示されることになります。

 弁護士としては、今後、どのような運用がなされていくのか、どのような場合に有効な使い方ができるのか、注視していく必要があります。

弁護士 水野太樹