東京では桜が開花し、きれいな景色を目にすることが多くなってきました。
 さて、春に桜といえば、お子さんの入学式などのイベントが待っています。

 今回は、そんな子供について親に認められている「親権」についてのご説明です。
 相も変わらず、法学部の民法ゼミでのX教授、Hさん、Iくんに登場してもらいましょう。

X教授: 「離婚のときによく問題になる親権。親権争いとなると、お互いに夢中で親権を取り合うことも見受けられますが、そういう人たちに限って、親権の中身について理解していないことが多かったりします。」

Hさん:「親権が何か分かってないのに取り合うんですか?」

X教授:「一般的には、子供を自分の手元で育てるために必要なものである、という認識があるようですね。では、親権とは子供を育てる権利である、と説明して正しいのでしょうか?」

Iくん:「親権の内容について定めているのは、民法820条ですね。『親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。』と定めてあります。ん、義務を負うんですか?」

X教授:「条文には明確に『権利を有し、義務を負う』を記載してありますから、親権というのは権利であり、義務でもあるということですね。」

Hさん:「では、親権とは子供を育てる権利であり、義務でもある、といったところでしょうか?」

X教授:「親権について、もう1つ関連する条文である民法824条があります。『親権を行う者は、この財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する』と定められています。親権は、民法820条と、824条の2つの条文を軸に構成されているといえます。」

Hさん:そうすると、親権とは、子供を育て、子供の財産を管理する権利義務である、と説明できるのでしょうか。」

X教授:「子供を育てるという側面を、820条では『監護』『教育』と表現し、まとめて身上監護権といいます。財産の管理に関する点はそのまま、財産管理権といいます。親権は、この2つの側面、身上監護権と財産管理権から成り立っています。ただ、先ほども述べたように『権』とありますが、義務でもあるわけです。正確な定義ではありませんが、Hさんの説明のように考えて大きく間違ってはいないことになりますね。」

Iくん:「義務でもあるというのが分かりにくいですね。どういう義務なのでしょうか?」

X教授:「財産管理権については、民法827条に『自己のためにするのと同一の注意をもって、その管理権を行わなければならない』と規定してあります。子供の財産を、自分の財産と同じように管理しなさいということですね。対して、身上監護権に対応する義務がどういうものなのかは定められていません。」

Hさん:「そうすると、身上監護に関して、親権者は義務を負わないのですか?」

X教授:「いえ、先ほど確認したように、820条で義務を負うと明確に規定されています。ただ、その義務がどういうものなのかが難しいところです。」

Iくん:「どのように考えたらいいのでしょう?」

X教授:「一つの考え方として、子育てというのは、例えば教育の方法や、しつけ方など、なにか正しい答えがあるものではないのですから、どのように教育するか、どのようにしつけるかについて、親権者に大幅な裁量が認められていると考えられます。その意味で、権利であるといえますが、裁量には限界があります。何より、『子の利益のために』なされたものでなければならない。つまり、『子の利益のために』親権を行使しなければならないという義務を負っているわけです。これに反する親権の行使は認められないことになります。」

Hさん:「ややこしいですね。」

X教授:「親権というのは、親の権利なのではなく、むしろ、子供の権利であり、親は子供のためにいろいろな義務を負っているのだと考えていれば、大きく間違えることはないと思います。」

Iくん:「なるほど。親権争いなんかしている時点で、子供の利益に反しているようにも思えますけど。」

X教授:「手厳しいですね。親権争いとはいうものの、要するに子供と一緒にいたいとお互いが考えているわけですよね。その意味では、ネグレクトや虐待の親よりは健全な気持ちだと思います。ただ、親権争いをしている方々は、自分が必死に取ろうとしている『親権』というものが何なのか、きちんと把握しておいてほしいですね。」

弁護士 水野太樹