民法824条本文は、「親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。」と規定しています。

 その趣旨は、未成年者は自己の財産を管理するのに十分な精神能力を有していないので、その保護者である親権者に未成年者の子の財産を管理させるという点にあります。

 この民法824条本文について興味深い判例があるので、紹介したいと思います。

 その内容は、

「親権者は、原則として、子の財産上の地位に変動を及ぼす一切の法律行為につき子を代理する権限を有する(民法824条)ところ、親権者が右権限を濫用して法律行為をした場合において、その行為の相手方が右濫用の事実を知り又は知り得べかりしときは、民法九三条ただし書の規定を類推適用して、その行為の効果は子には及ばないと解するのが相当である(最高裁昭和三九年(オ)第一〇二五号同四二年四月二〇日第一小法廷判決・民集二一巻三号六九七頁参照)。

 しかし、親権者が子を代理してする法律行為は、親権者と子との利益相反行為に当たらない限り、それをするか否かは子のために親権を行使する親権者が子をめぐる諸般の事情を考慮してする広範な裁量にゆだねられているものとみるべきである。そして、親権者が子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、利益相反行為に当たらないものであるから、それが子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど、親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、親権者による代理権の濫用に当たると解することはできないものというべきである。したがって、親権者が子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為について、それが子自身に経済的利益をもたらすものでないことから直ちに第三者の利益のみを図るものとして親権者による代理権の濫用に当たると解するのは相当でない。」

というものです。

 この判例は、本判決は、親権者が代理権を濫用した場合に、民法九三条ただし書を類推適用して子の財産の保護を図るという法的構成を明らかにした上、親権者において子所有の不動産を第三者の債務の担保に供する行為が特段の事情がない限り代理権の濫用に当たらないことを判示しました。同種の事例におおても先例的な意義があるといえるでしょう。

弁護士 大河内由紀