今回は、離婚に伴う財産分与にあたり、一方の受け取る退職金が財産分与の対象となるかについてお話ししたいと思います。

 財産分与は、一般的には、夫婦の共同生活中に形成された共有財産の清算を目的とする財産の振り分けをいいます。

 婚姻後に当事者が受け取った給与は、まさに夫婦の共同生活中に形成された共有財産といえますので、財産分与の対象にあたることはわかりやすいと思いますが、離婚成立後に受け取る予定である退職金は、婚姻期間外に受け取った財産なので、財産分与の対象にならないようにも思えます。

 しかし、退職金は、婚姻期間中になされた労働の対価についての後払い的性質の側面を有していると考えられていますので、婚姻後別居に至るまでの期間に対応する部分については、財産分与の対象となります。

 この点、東京地裁平成11年9月3日判決は、以下のように判断しています。

「将来受け取るべき退職金が清算の対象となるか否かであるが、将来退職金を受け取れる蓋然性が高い場合には、将来受給するであろう退職金のうち、夫婦の婚姻期間に対応する分を算出し、これを現在の額に引き直した上、清算の対象とすることができると解すべきである。」

 まず、「将来退職金を受け取れる蓋然性が高い場合」ですが、退職金を受け取る時期があまりに後のこととなったり、仕事の性質上退職金額が大きく変動するようなことがあれば、蓋然性が認められないと判断されることもありえるでしょう。

 次に「婚姻期間に対応する分」の計算方法ですが、実質的婚姻期間を、退職時までの勤務期間総数で割ることで算出されます。

 そして、「現在の額の引き直し」の計算をするためには、ライプニッツ係数というものを使います。これは、利息で運用した結果、受け取る予定の退職金額に至ると仮定して、中間利息を控除することによって算出されます。例えば、6年後に退職金を受け取る予定があるということであれば、法定利率5パーセントを複利計算で控除すると、ライプニッツ係数は、1÷1.05÷1.05÷1.05÷1.05÷1.05÷1.05 ≒0.74621540となります。

 以上より、財産分与の対象となる退職金は、

想定される退職金額×実質的婚姻期間/退職時までの勤務期間総数×退職期間までのライプニッツ係数

 となります。

 なお、上記の計算方法とは別に、別居時に自己都合で退職した場合の退職金相当額を考慮する場合もあります。その場合の計算方法は、

退職金×(婚姻期間÷退職金の基礎年限)

 で算出されることになります。金額としては、3で示した計算方法の方が高くなると思われます。