1 ご挨拶

 はじめまして。本年1月5日より当所にて執務を開始しました、弁護士の伊藤と申します。

 これから、本ブログを不定期に担当します。日頃、離婚相談業務を担当している弁護士としての視点で記事を書いて参りたいと考えていますので、しばしお付き合い頂ければ幸甚です。

2 離婚とお金

(1) 離婚するにもお金が必要

 「ビビビッ」と運命を感じて結婚した二人の間にも、いつからか心の距離ができ、そこに隙間風が吹き荒んで愛情を冷却させて、ついには離婚に至る・・・ということも、世情しばしばみられるところです。

 二人の間での話し合いで離婚(「協議離婚」といいます。)ができる場合には、弁護士や裁判所が出る幕ではありません。しかし、問題となるのは、当事者同士の話し合いでは、なんとも上手くいかない場合です。

 この場合には、家庭裁判所での調停や裁判(それぞれ「調停離婚」「裁判離婚」といいます。)の法的手続を経て、離婚をすることになります。ただ、こうした法的手続には、数か月からときには1年以上に及ぶ長い時間がかかることがあります(最高裁判所事務総局家庭局『人事訴訟事件の概況‐平成22年1月~12月‐』によれば、離婚訴訟事件の平均審理期間は10.7か月であり、このうち当事者双方が出席し、かつ判決で終局した事件をみると、14.8か月。)

 そして、離婚に向けた法的手続がとられるような場合、当事者はすでに別居していることが多いことでしょう。配偶者の一方が、職業を持たない専業主婦(夫)であったときには、すぐに当面の生活費の問題に直面することとなります。

 つまり、離婚をするにも“先立つモノ(=お金)”が必要なのです。

(2) そのときどうする!?

 離婚が成立した暁には、婚姻中の夫婦の共同財産の清算などとしての財 産分与という形で、財産がある配偶者(だった者)から、お金を払ってもらえることがあります。

 しかし、財産分与を受けることができるのは、離婚が成立した後なので、法的手続をとっている最中には、当面の生活原資として財産分与をあてにすることはできません。

 では、どうすればよいか・・・。

(3) 婚姻費用の仮払い仮処分

 こんなときに役立つ制度として、婚姻費用の請求があります。婚姻費用とは、夫婦が分担する結婚生活に必要な費用をいいます。

 しかし、互いに離婚を巡って角を突き合わせている状況では、相手方が、自ら進んで、別居中の配偶者に対して婚姻費用を支払ってくれるケースは必ずしも多くありません。

 夫婦間の話し合いで調整がつかない場合には、家庭裁判所に婚姻費用分担請求の調停を申し立て、ここで合意が成立しなければ、次は審判手続に移行することになります。審判を直接求めることも制度上可能ですが、家庭裁判所では、当事者間の合意による解決を優先する見地から、審判請求をしてもいったん調停に付されてしまうことが少なくありません。

 ここで考えなければならないのは、婚姻費用は日々の生活費の問題だということです。働くこともできず、差し当たっての生活費にも困っているというような場合には、調停でのんびりと話し合っている時間はありません。

 そこで、このような場合、審判と共に仮払い仮処分を申立て(家事審判法15条の3、家事審判規則51条、同52条の2)、審判手続及び仮処分手続を進めるような戦略が有効になるわけです。

 また、仮処分手続の申立には、審判手続自体を早く進ませ、付調停にされるリスクを減らすことも期待できます。

3 最後に

 以上のような方法がありますが、その手続きは、法律実務に馴染みのない方にとっては煩瑣です。また、当事者の方が置かれた具体的な状況によっては、さらに他の適切な手段がある場合もあります。離婚問題等でお悩みの場合には、早めに弁護士にご相談なさることをお勧めします。

 今回のお話は以上となります。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

弁護士 伊藤蔵人