前回書きました通り、今回は別居後離婚において最も敏感な問題である、子どもの監護について触れようと思います。この問題は、多くの場合、夫婦双方のみならず親族まで巻き込み、泥沼となりかねない危険性を有していると考えられます。
前回の記事はこちら:別居から離婚6

 別居する側は、多くの場合には子どもも一緒に連れて行きます。そのことで、離婚交渉にあたり自分方に子どもがいる状態で開始することができる大きな利点がありますが、相手方の強い反発にさらされながら多くの決定(面交条件など)に責任を持つこととなる辛さもあります。

 私の経験から、子どもの監護権が深刻な問題となる理由に、勝つか負けるかしかないことがあると思われます。夫婦が別居した以上、子どもはどちらかの下でしか監護養育できず、夫婦が共に子の監護権を希望するなら、どちらかは必ず涙を呑むこととなります。当然、負けた方は相手に強い反感を有することとなるため、離婚に向けた協議が行き詰ってしまう可能性が高くなります。

 子の監護権は、単に親権、身柄をどちらが獲得するかという親子の情の問題だけに留まらず、婚姻費用の額や養育費支払義務の有無にも関わってきます。そのため、どちらかが子の監護権を取得したことに他方が納得しない場合、離婚に際した金銭給付の点までも協議でまとめることが難しくなります。

 最終的に審判や訴訟を利用するとしても、金銭的、時間的コストがかかることはどうにもなりません。速やかな解決など望むべくもありません。

 子どもがいても、深刻な対立に至ることなく離婚できるケースもあります。経験上、子どもが一定以上の年齢に達している場合には、子の意思でどちらの親についていくかを語らせることができるためか、きれいに離婚できることが多いです。そのようなケースは大体、夫婦間では金銭面に絞って話を行い、子はどちらが引き取るかと面会交流については子の自主性に任せる形で、決着します。

 しかし、子どもがまだ幼少で、しかも夫婦双方が監護権にこだわる場合には、協議での円満解決は絶望的です。子の身柄を押さえた方が勝つ可能性が高くなるので、ひどい身柄の奪い合いになったり、連れ去りを警戒して面会交流に応じようとせず、それが更なる不信と対立を招いたりと、揉めこそすれ収まらずとなります。当事者が感情的になりすぎて、理性的な判断を受け付けなくなると、弁護士の方もお手上げとなってしまいます。およそ速やかな離婚を望むに当たり、最悪と呼べる事態です。

 以上の子の身柄を巡る紛争長期化のリスクは、親子の情や扶養義務の問題、監護権がどちらか一方にしか認められない現実がある以上、絶対的に回避することはできないと思われます。あえて何か対策を考えるなら、精々が子の幼いうちに離婚をしないように、性格の不一致くらいは笑って収める努力を怠らないくらいです。

 「子はかすがい」との言葉がありますが、かすがいとは隣り合った板を引っ付けるために打ち込む、ステープラーの針を大きくしたような金具のことだそうです。かすがいを打ち込んだまま板を引き離そうとすると、板も裂ければかすがいも曲がってしまい、どれも無事では済まないでしょう。子が小さいうちに離婚を決断するのであれば、そんな思いをしてまでも決断を貫けるか、よく気持ちを確かめておくことを勧めます。

 やや「白旗を上げる」様な文章を書きましたが、特に子を巡る人間の感情問題は、法律のどうこうではなかなか割り切れない力を持っていると強く感じます。難しい問題であるほど、「困難を一挙に解消する魔法のようなやり方」などは存在しません。揉めることが避けられないのであれば、正面から取り組み、厳しい思いもしながら解決を目指す覚悟が求められると思います。