皆様、こんにちは。

1 イントロ

 面会交流では、お子さんを監護している方の親が他方の親との面会を拒むケースが少なからずあります。このような場合、裁判所に申し立てて履行勧告をしてもらったり、間接強制として面会の拒否に違約金を発生させるといった手続が存在することは過去のブログ記事で紹介されたかと存じます。

 それでは、その他に面会を拒否する親が責められることはあるのでしょうか。今回は面会を拒否した親に対して損害賠償請求訴訟が行われたケースをご紹介します。

2 事案の概要

 甲(父親)と乙(母親)の間に子A(長女)が生まれたという家族構成でした。平成14年に、乙がA(当時7歳)を連れて別居を開始しました。平成15年には甲が申し立てた面会交渉調停により、乙は甲がAと月1回以上面会することを認めるとの調停が成立しました。なお、平成19年には、乙が提起した離婚訴訟で乙を親権者と指定として離婚請求を認容する判決が確定した結果、甲と乙は離婚しました。

 この間、平成17年頃までは月1回の面会交渉が継続されていました。面会の際には乙もAに付き添うようにしていましたが、乙は甲に対する不信感から面会を拒否するようになりました。

 これは、平成16年頃に離婚調停が不調に終わった一方で、甲からは面会の回数を増やすこととAのみとの面会を希望するとの要望が継続的に出されていたこと、甲がAの学校行事に参加したこと(学校の校長の承諾は得ていました)等が原因でした。

 甲は面会の内容が不公平であるとして、改めて面接交渉調停(注;当時は「面接交渉」と呼ばれていました。)を申し立てましたが、不調に終わりました。その後の甲とAの交流は、正式な面会は乙に拒否されていたものの、学校行事への参加や乙の自宅の玄関先で立ち話をしたり、電話で話をしたりするといった形で継続していました。

 ところが、平成20年に乙は甲に転居先や連絡先を知らせずにAと転居しました。甲は転居先の住所は調べ出して、プレゼントを置いていきましたが、前記の離婚訴訟が終結した頃から長女の甲に対する評価が否定的なものとなり、「プレゼントはいらない」「話しかけるのはやめてほしい」と、甲との交流に消極的になっていきました。

 このため、甲は乙が面接交渉の調停合意を守らなかったので面会交渉権が侵害されたとして、300万円の損害賠償等の請求を行いました。

3 裁判所の判断

 裁判所(横浜地方裁判所平成21年7月8日判決)は、甲の請求を一部認め、乙に金70万円の損害賠償義務を認めました。

 裁判所の判断は、①乙の面会甲が乙の許可を得ずにAの学校行事に参加するようになった点と②甲が面会の回数増と乙の立会いを外すことを要求し続けた点について、面会拒否を正当化する事情になるか否かという観点で検討されていました。①については、(ⅰ)調停成立時に将来前向きにその都度協議をするというレベルでの合意があったことから、甲が行事参加の希望を申し出ることは合意に反しない、(ⅱ)甲が乙の承諾を得ずに学校行事に参加したこと自体は調停の合意に反するものの、乙は協議を拒否し、甲は学校に事前の承諾を得ることで学校には迷惑をかけずに参加していたこと等の理由から、拒否を正当化する事情にはならないとしました。

 ②については、(ⅰ)調停の合意内容では「月1回以上」と将来的に増加の余地を想定していたこと、(ⅱ)一般に監護している方の親の立会ないで面会するようになっていくことから、本件でも将来的には乙の立会なしで面会を実施することを検討するとの了解に至っていた推測できる等の理由から、これまた面会拒否を正当化する事情にはならないと評価しました。

 裁判所は乙の面会拒否が一因となってAが甲との面会に消極的になっていたと評価する一方で、甲が乙に対して再三面会の回数増加等を求め続けたために面会の協議が困難な状況にしてしまったという配慮の欠如があったことから、前記のとおり70万円の限度で損害を認めました。

4 まとめ

 この事件では既に家庭裁判所で面接交渉調停により面会に応じるとの合意が決まっているので、これに応じないと基本的には乙の落ち度が認められやすいといえます。逆に乙は、それでも面会に応じられないという理由を主張立証しなければなりません。

 本件は、同時期に離婚訴訟が係属していたとはいえ、甲に対する嫌悪感から面会を拒否していた様子がうかがわれたので、損害額のところで裁判所に多少の考慮はしてもらったかもしれませんが、お子さんの発育のためにある程度、協議には応じるべきでしたよね、という裁判所から乙に対するメッセージが感じられました。

 このケースからもわかるとおり、裁判所のスタンスは子の福祉、すなわち、お子さんの成長にプラスになるか否かが軸になるので、親御さんとしては相手に対して複雑な気持ちはあると思いますが、割り切って考えられる方がご自身らにとってもプラスかもしれません。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。