前回の続きです。
前回の記事はこちら:「養子との離縁(前編)」
ようするに、あなたの配偶者が、あなたとあなたの配偶者との連れ子(ただし15歳未満のとき。15歳以上になると連れ子本人の意思に左右されます)との養子縁組解消(離縁)を拒んでいないような場合はいいけど、拒んでいるような場合には大変なことになるんじゃないか?というお話です。
実は、離婚と離縁とはよく似ておりまして、離婚の場合は法定離婚原因がなければ裁判離婚で相手が離婚を争ってくると負けてしまうのですが、同様に離縁の場合も法定離縁原因がないと、配偶者が離縁を争ってきた場合には裁判離縁できないのです。ちなみに法定離縁原因(民法814条1項)は下記の通り。
① 悪意の遺棄
② 他の一方の生死が3年以上明らかでないとき
③ その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき
まあ、①は離婚の場合も同様の条文があるので分かりますよね。「遺棄」というのは、扶養義務違反に限らずに、正当な理由なしに一般的に合理的な親子関係として要請されている精神的共同生活を破棄した場合も含むと解するのが通説です。
②は、単に「養子から連絡がないねえ・・・」というレベルではなく、生存も死亡も立証できないことを意味します。
ということで、再婚の場合の連れ子で①・②のような事態はあまり発生しないと思われますので、問題は③なんだと思います。何をもって「縁組を継続し難い重大な事由」というのでしょうか?
判例上、縁組を継続し難い重大な事由とは、養親子としての精神的経済的な生活共同体の維持若しくはその回復が著しく困難な程度に破綻したとみられる事由があることであり、当事者双方又は一方の有責事由に限るものではないとされています。
ここで、離婚における有責配偶者と同様、離縁においても有責当事者の離縁請求が認められるのかという疑問が生じますよね。学説は色々なのですが、最高裁は有責当事者の離縁請求に対しては基本的に消極的です。当たり前といえば当たり前ですけど、本当にこういうところも離婚とそっくりなんです。
じゃあ具体的に、「養親子としての精神的経済的な生活共同体の維持若しくはその回復が著しく困難な程度に破綻したとみられる事由がある」とされるのか、判例で認められたケースをいくつか挙げましょう。
① 暴力行為や侮辱行為があった場合
② 婿養子の場合で養子夫婦が離婚した場合
③ 長年にわたって絶縁状態にある場合
④ 養父が管理保管すべき金銭を無断で持ち出すなどの金銭上のトラブルで信頼関係が失われた場合(もちろん養子からの請求事案ですぞ)
⑤ 養父が養子を事業の後継者としたにもかかわらず、その財産全てを養母に遺贈したことから、養母と養子夫婦との間に感情的対立が生じた場合
⑥ 養親が養子の結婚にかたくなに反対してその結婚を阻害する行動をとり続けたことなどから信頼関係が失われた場合(これももちろん養子からの請求事案ですぞ)
すみません、ここを読まれている方が欲しい(と思われる)情報がありませんよね(笑)。「何、じゃあ、配偶者と離婚しただけでは連れ子と離縁できないの?」とおっしゃるでしょうが、理屈としては「当然には離縁できない」が正しいのです。
何と、婿養子縁組につき養子が養親の実子と離婚している事実があっても、そのことだけで直ちに縁組を継続しがたい重大な事由がある場合にはあたらない、なんて言っている下級審判例がありまして(神戸地裁昭和25年11月6日判決)。その一方で、夫婦間に婚姻を継続しがたい重大な事由があって離婚した場合は、夫の連れ子と妻との間にも縁組を継続しがたい重大な事由があるとされ、離婚が離縁の理由になることを認めた判例(京都地裁昭和39年6月26日判決)もございます。
そういうことで・・・離縁でもめないよう、養子縁組は慎重にしてください、という他ありません。
弁護士 太田香清