皆様、こんにちは。
1 イントロ
婚姻費用や養育費が払われるか否かは、監護されている親御さんにとってとても切実ですよね。しかし、監護状況の切実といえない場合には、養育費の請求はなかなか通るものでもないのかもしれません。 今回は、血のつながりのない子の養育費等の扱いについて、上記のテーマも絡めつつ考えてみたいと思います。
2 事案の概要(最高裁第二小法廷平成23年3月18日判決・判タ1347号95頁)
X(妻)とY(夫)は平成3年に婚姻した後、平成8年に長男Aが、平成11年には三男Cが生まれました。ところがその間、XがY以外の男性と性的関係を持ち、平成10年に二男Bが出産しましたが、Yには父親が異なることを伏せていました。
YはXに通帳やキャッシュカードを預けたままにしており、預金口座から生活を引き出すことを許していました。その後、平成11年頃から生活費を手渡しするようになり、月額150万円をほぼ渡していたそうです。
しかし、平成16年1月末頃にはYの不貞行為により婚姻関係は破綻し、その後、YはXに対して月55万円の婚姻費用を支払う旨の審判がなされて確定しました。
ところが、平成17年4月になってYは初めて、Bが生物学上自分の子供でない事を知りました。Yは直ぐに親子関係不存在確認の訴えを起こしましたが、却下されて終わってしまいました。
YはXに対して、離婚訴訟を提起しました。対するXも反訴を起こし、離婚の請求に加えて養育費として月20万円の支払いを求めました。
3 裁判所の判断
原審では、3人の子らの親権者をXと定め、さらにYと血のつながりのない二男Bについても法律上の親子関係がある以上監護費用を負担する義務があるとして、1人あたり月14万円(計48万円)の養育費の支払いを認めました。
しかし、最高裁判所は上記の判断を取り消し、二男Bは養育費の支払われるべき対象から外しました。
その理由は、YはBとの親子関係を否定することができなくなっていたこと、XはYから当初は月額150万円、婚姻費用の審判確定後は55万円の支払いを受けていました。加えて、今回の離婚に伴う財産分与として、Yの財産を相当もらえる見込みもあったようです。それらの事情を踏まえると、XがBの分の養育費を請求することは権利の濫用にあたると判断しました。
4 まとめ
(1) 今回の最高裁判所の判断は一般の方から見ても割となじみやすいかもしれません。
Xはこれまで任意で150万円を受け取り、婚姻費用も下がったとはいえ月55万円もらえれば、生活するには充分だったと思われます。また、上記の金額からもわかるとおりYは高額所得者のはずですから財産分与の額も相当な高額になると思われます。
他方で、Yは法律上の親子関係を否定する手段こそ使えないものの、Bは実の子ではなく、養子にするわけでもありませんので、離婚によってYとBの親子関係は完全に形骸化したととらえられます。 最高裁はこのような事案の特殊性に着目して、Bの養育費は不要との結論に至ったと思われます。
(2) しかし、今回の判決は実子でないことが秘匿されていた親子関係のケース全てに通用するものではないでしょう。最高裁は法律上の親子関係が否定できない状況において離婚後に義務者が追う扶養義務をどのようにとらえるべきか、特に考察を示してはいません。
あくまで子の福祉に反するか否かでさじ加減を決めているので、ごく普通の家庭の所得レベルの場合には、母親の収入のみでは生活は苦しい等と理由づけて、血がつながっていない子も数に入れて養育費を算定することは充分ありうると思います。
本日もお付き合いいただきましてありがとうございました。