みなさん、ウッカリカサゴという魚がいるのはご存じでしょうか?
 カサゴ(西日本では色んな方言で呼ばれています。関西ではガシラ、九州ではガラカブ・アラカブ、私の地元徳島ではガガネ、などと違う呼び方をしていますが、全て同じ魚です)によく似た魚なのですが、カサゴより大きく、模様が少し異なります。
 名前の由来は、「他のカサゴとうっかりすると区別がつかないカサゴ」とのことです。お時間のある方は、どんな魚か一度見てみてくださいね。

☆普通のカサゴ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/kasago/kasago.html

☆ウッカリカサゴ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/kasago/ukkarikasago.html

 さて、最近、ひそかに私が「ウッカリ調停」と呼んでいるタイプの離婚調停が増えているように思います。なぜ、「ウッカリ調停」が増えていると思うのかというと、「ウッカリ調停」を申し立てられた男性がよく来所されるようになったからです。

 では、「ウッカリ調停」とはどのようなものでしょうか? 以下、辞書的に定義を記します。

【ウッカリ調停】
 女性が、一度も専門家に相談することなく申し立てた離婚調停のうち、非常に戦略的にマズいもの。相手方に弁護士が付くと、非常に不利な条件で離婚せざるを得なかったり、不調に終わって離婚できなくなったりする。

 私は、あくまでも「ウッカリ調停」を申し立てられた男性の方の話しか聞いていない(「ウッカリ調停」を申し立てた女性の相談はほとんど聞いたことがない。またなぜかうっかりと調停を申し立ててしまうのは大抵の場合女性であって、なぜか男性ではそのようなケースを聞かない)ので想像なのですが、彼女たちはこういう気持ちで「ウッカリ調停」を申し立てているものだと思われます。

 「離婚したいし、慰謝料も欲しいし、当然養育費ももらいたいわね!(←ある意味健全な欲求です) 何だか、ダンナに離婚したいと言っても、『眠いからまた明日』とか言っていつもテキトーに流されるし・・・ネットを見たら、協議離婚できない時には調停を申し立てるしかないそうね(←ここは知識として正しい)。じゃあ、明日家裁に行って、早速離婚調停を申し立ててきましょう! 家裁に行けば、申立書の書き方を教えてくれるそうよ(←ここも知識として正しい)。」

 さて、彼女の思考回路のどこが問題なのか? それは、専門家に相談をしていないため、「私のケースは離婚できるのかしら?」という疑問を持っていない点なのです。「協議離婚できなければ調停を申し立てるしかない」というのは真の命題ですが、「調停を申し立てれば離婚できる」というのは必ずしも真ではありません。

 また、家裁に行けば、調停の申立て方は教えてくれますが、彼女のケースで離婚できるかどうかまで懇切丁寧に教えてくれたりはしません。それはそうです。家裁の書記官は弁護士ではない。

 さて、そうやって彼女は離婚調停をうっかり申し立ててしまうわけですが・・・よくある戦略的にマズいケースをご紹介しましょう!

① 別居して生活費ももらっていないのに婚姻費用分担の調停を申し立てていない。

 →実は弁護士でもたまに申立て忘れています。しかし、夫側からすれば、タダでうるさい妻が出て行ってくれたことになって、願ったり叶ったりです(笑)。

② 実は申立人が有責配偶者だ

 →典型的なのは、彼氏ができたので早く旦那と離婚したい、というケースですね。まあ、これは弁護士の場合でも、依頼者の希望を聞き、「これ、離婚するのであれば慰謝料をだいぶ払わないといけない恐れがありますよ」と説明しながら申し立てることが良くあります。

 しかし、素人は「有責配偶者からの離婚は原則認められない」という知識が欠落しているか、「絶対に旦那は証拠なんか握っているはずがない」という楽観主義かのいずれかであったりしますので、申し立ててみて初めて(訴訟までやっても)離婚できないかもしれないことに気付くわけです。恐ろしいですね。妻の不貞の証拠を握っている場合、夫であるあなたは微笑んで、「あいつのもとから帰ってきたら、いつでも許してやる。だから離婚しない」と調停委員に言っていればよいのです。そのうち不調になるでしょう。

③ 特に離婚事由がなく、別居期間も短い

 →最も多いケースですし、当職もよく申し立てるわけで、みなさんもどこが「ウッカリ」なのか分からないかもしれません。しかし、②の場合と同様に、夫に「離婚しない」と頑張られたら訴訟しても離婚できないわけです。少なくとも夫の離婚の意思があることを確認してから申し立てるべきですが、「ウッカリ調停」の申立人は離婚調停はどんなときでも離婚させてくれる魔法の儀式だと思い込んでいる節があります。それで、申し立ててみたのはいいが離婚できませんでした、となるのです。

④ 混合型

 →①と②、①と③など、マズい要素が複数あるケースです。最悪です。いや、夫であるあなたからすると、最高です。喜んでください(笑)。

 たしかに、離婚調停の呼び出し状が家庭裁判所から送られてくるのは、あまり気分のいいものではありません。「俺はヨメに慰謝料や養育費をたくさん巻き上げられるのだろうか・・・」と不安になっておられる方もいるでしょう。

 しかし、「ウッカリ調停」と「調停」は「ウッカリカサゴ」と「カサゴ」より見分けがつきやすく、プロが見ればよ~く分かりますので、奥様に離婚調停を申し立てられた方はご自分で判断なさらず、まずは弁護士に相談してくださいね。依頼していただければ、「ウッカリ調停」はカサゴのごとくおいしく料理できると思います。揚げてよし、煮つけてよし、刺身にしてよし! 離婚をしぶるもよし、金額をまけてもらうもよし、お子さんの親権を主張するのも当然よし、ですよ。

弁護士 太田香清