離婚の際、お子さんの親権が別れた奥さんになったとします。

 それで子どもが幸せだというのであれば、あなたは毎月養育費を送り、たまに面会交流を行うということになるでしょう。寂しいことですがやむを得ません。

 しかし、子どもが15歳以上(法律に15歳などと書いてあるわけではないですが、大体その位の年齢、ということです)になれば、親権者変更調停・審判でお子さんの意見が尊重されますので、大きくなって本当にお子さんがあなたと一緒に住みたいということであれば、お子さんとの同居も実現するかもしれません。

 「かもしれません」と書きましたが、私は実際に、離婚の際親権者ではなくなった方の親の家に、「私、一緒に住む!」と言って中学3年生になったお子さんがやってきたというケースを聞きました(お話の主はこの子のおじいちゃんです)。

 このお子さんは自分で「15歳になればお父さんのほうに行ってもいいらしい」ということをどこかから聞き、住所から地図を見てお父さんの家を訪ね、お父さんの家から通いやすい高校をリサーチして受験したそうです。最近の15歳は行動力がありますよね。

 小さな子どもにまでインターネットが普及している現代ですから、このブログを小・中学生が読んでいることもありえます。
 なので、私は離婚してお父さん・お母さんのどちらかと一緒に住んでいる子どもさんたちに一言いいたい。中3くらいになったら、好きな方の親御さんのところへ行ってもいいんですよ! お父さんとお母さんはちょっと裁判所内外でケンカになるかもしれないけど、そういう面倒なことは大人に任せてしまって下さい。「そういう面倒なこと」のために我々弁護士がいるわけですからね^^

 さて、行動力のある大きなお子さんはさておき、小さなお子さんの場合はどうでしょうか。何があっても家から出られないかもしれません。仮に、元妻の子どもに対する虐待の事実を知ってしまった場合、あなたはどうしますか?

 上に、親権者変更調停・審判と書きました。しかし、「のんびり調停なんかやってる場合じゃないよ!」と思いますよね。全くその通りです。個人的に、親権者変更調停が使えるのは、特に緊急性もなく、元夫と元妻との間で親権者の変更について前もってほぼ合意ができているような場合だけであると考えています(離婚後に親権者を変更する場合には、父母の合意のみではできませんので、父母のいずれかが親権者変更調停を申し立てる必要があるわけです)。要するに、のんびりやっていていい事案だけです。

 では、緊急性のあるケースではどうしたらよいでしょう? 親権者変更審判、これはよしとしましょう。
 しかし、審判も即刻手続を進めてくれるわけではありません。離婚前にお子さんと離れて暮らしていてお子さんを取り返したい場合については以前言及したことがありますが、監護者指定審判・子の引渡し審判・監護者指定の仮処分・子の引渡しの仮処分の計4つを申し立てるのでした。離婚後も同様に、親権者変更審判以外に、子の引渡し審判・子の引渡しの仮処分・監護者指定の審判・監護者指定の仮処分を同時に申し立てればよいかと思われます。ただ、どのような組み合わせで申し立てるかは一考の余地があるように思えます。判例などを見ても、この全部を申し立てているものはあまりないようです。

 後忘れてはいけないのが、親権喪失宣告の申立て(併せて、親権者職務執行停止並びに代行者選任という審判前の仮処分を申し立てる)で、これと、親権者変更審判とを同時に申し立てることが考えられます。ますます手続の組み合わせが悩ましいところです。ただ、親権喪失宣告というのは、親権者変更(民法819条6号)と同様に民法典に条文がある(834条)にもかかわらず、あまり申立件数がないようです。この平成21年の法務省の統計http://www.moj.go.jp/content/000036402.pdf#search=’親権喪失宣告 申立 件数‘をご覧ください。

 だいたい申立件数が年間100件ちょっと、認容件数は年間20件前後。裁判所も消極的なのでしょうか。審理期間もまちまちですよね。早いものは1か月以内に「既済」となっていますが、「既済」には取下げも却下も含まれるので、本当に親権喪失宣告に即効性があるのかないのかはこの資料からは分かりません。

 ただ、国も、子の虐待については黙って見ているだけではなく、何らかの対応が必要であると考えています。民法を改正して、親権の喪失だけではなく、停止(最長2年間)もできるようにしようという動きがあるのです。
 詳しくはこちらhttp://www.moj.go.jp/content/000059741.pdf#search=’児童虐待防止のための親権制度見直し要綱案‘をご覧ください。

 「政府は関連する民法の改正案を今通常国会に提出する」との報道があったのは、今年の2月中旬のことです。今改正案がどうなっているのか良く分かりませんが、裁判所は空気を読める機関ですので(笑)、今なら親権喪失宣告も案外積極的に考えてくれそうに思います。

 他に、人身保護請求というものもありますが、これによって監護権のある親から子どもを引き渡してもらうには、その監護権のある親が「子を監護することが子の幸福に反することが明白である場合」に限って認められるという最高裁の判断枠組みがあり、このブログのケースでは(虐待等緊急性の程度によりけりですが)どうかなあという気がします。ハードルもかなり高いです。

 以上、まとめると仮に離婚時に親権者とならなくても、後で親権者になれるのは、①子どもが大きくなって自分でやってきた場合(親権者変更調停・審判等の申立てが必要だが、認められやすい)、②双方の親である程度話し合いがついている場合(親権者変更調停の申立てが必要だが、ある程度認められやすい)、③親権者が子どもに対して虐待等を行っており、子の福祉に反するような場合(ケースに応じて各種申立てが必要、泥沼の争いになるおそれも)、ということです。①・②は申立ての書面さえ作成できれば後はご自分でもできる人はできるんじゃないかなあと思いますが、③についてはなかなか(手続の選択も含めて)難しいと思います。是非弁護士にご相談を。

弁護士 太田香清