唐突ですが、お寿司屋さんでどういう順番でネタを注文したら良いか迷ったことはありませんか?
 実際のところ、厳密なルールがあるわけではないようです。しかし、味の薄い白身魚から始めて、トロ等の脂っぽいものは後、最後は巻き物でさっぱりしめる、というのがお寿司屋さん推奨の食べ方みたいですね。たしかに、大トロの後で鯛や鮃を食べても味がしないと思います。

 このように、物事には「絶対的ではなくても好ましい順番」というものがあります。法的手続もしかり。順番を間違えてしまったせいで、すぐにまとまるはずの話がなかなかまとまらず、時間と労力を余分に使ってしまうことがあります。

 離婚関係の手続はどうでしょう?
 あなたが、「嫁が浮気したので、離婚したい。嫁と相手の男から慰謝料がほしい。嫁が持って出て行った通帳を返してほしい。子どもも返してほしい。親権は絶対に俺だ!」と思っているとします。これらの希望を実現させるために、あなたはどういう順番で何をすべきですか?

 あまりよくわかっていない弁護士に相談すると、「とりあえず離婚調停を申し立てて、その中で話し合いましょう!」という答えが返ってくるように思います。たしかに、離婚調停の中でこれらのことを話し合うことは可能です。しかし、以前書いたように、親権を絶対に取りに行きたい事案では監護者指定と子の引渡しの審判(及びこれらの仮処分)を申し立てる必要があるので、のんびり離婚調停で話し合っているヒマはありません。

 「じゃあ、俺の離婚は!通帳は!慰謝料は!どうなる?」と思う方もいらっしゃるかと思います。しかし、とにかく最初に監護者指定と子の引渡しの審判・仮処分を申し立てるべきで、他は後にすべきです。勢い余って離婚調停も一緒に申し立てるのはよくありません。理論上は一緒に申し立てても問題ないのですが、監護者指定と子の引渡しで争っている間は離婚調停なんかまとまりませんので(少し考えていただければ分かると思いますが)、一緒に申し立てる意味がありません。お子さんを取り返す方に専念すべきです。裁判所にも、「とにかく、子どもを取り返して、それから離婚について考えたいんです。」と言ったほうが共感を得られやすいです。別に共感なんか得なくてもいいですけど(笑)、裁判所が「もっともだ」と思ってくれ、手続がスムーズに進行するように思います。

 慰謝料の方は、不法行為の時効もありますので、審判・仮処分をやっている裏で先に不貞相手に通知を発送して示談交渉できるならしてもいいように思います。不貞相手が不貞を認めれば、後の離婚調停もラクになりますしね。でも、あくまでも優先すべきは監護者指定と子の引渡しの審判・仮処分ですよ!

 このブログは、「お父さんのための」と銘打ってありますが、お母さん向きの情報も少しお伝えすると、監護者指定と子の引渡しの審判・仮処分と同時に婚姻費用分担請求の審判(と仮払仮処分)を申し立てるのは大いにアリです。離婚調停だと監護者指定と子の引渡しの審判・仮処分と内容が一部交錯してしまうのでダメですが、婚姻費用分担請求なら内容が交錯・矛盾しないのでOKです。

 もっとも、婚姻費用算定の基礎となる「養育する子どもの人数」が、監護者指定と子の引渡しの審判・仮処分の結果如何で変わってしまうので、監護者指定と子の引渡しの審判・仮処分の決定が出るまで婚姻費用分担請求の審判・仮処分の決定も出ません。
 ただ、婚姻費用分担請求というものは早くやっておくにこしたことはないので、同時に申し立てた方が結論が早く出て、早く婚姻費用がもらえるようになるのでよろしい、ということなのです。で、監護者指定と子の引渡しの審判・仮処分や婚姻費用分担の審判の結果が出れば、そのうちダンナが嫌になって、向こうから離婚調停を起こしてくるでしょう。向こうから調停を申し立ててくれれば調停の管轄があなたの住所地の管轄の家庭裁判所になるので、出頭もラクです。

 そういうわけで、何でもかんでも調停を申し立てればいいわけではないことが分かっていただけたでしょうか?

弁護士 太田香清