今更ながら、タイトルを「お父さんのための親権ゼミ」にしたほうが良かったかなあと後悔している私です。この間も、「隠岐土産だけに置き土産!」などとダジャレを言って思いっきりすべってしまいましたが、やらないことで後悔するより、やって後悔したほうがいいというのが私のモットーです。
それはさておき、今日はDV法に基づく保護命令への対応について考えてみようと思います。
というのも、これが出されてしまうと裁判所の心象が悪いことこの上ないからです。たしかに、妻に暴力をふるったことと、子に対する暴力の可能性とは必ずしも関係がないんじゃないかと思われがちであり、実際そうなのかもしれません。
ですが、攻める側(妻側)は、「私に対する暴力→子に対する暴力の可能性」という論法のみならず、「夫が私に暴力をふるっているところを子どもが見ており、それが子の精神にダメージを与えている→親権者失格!」というリクツも使ってきます。これは裁判所の調査官も傾聴するリクツのようです。あと、「そういうシーンを見て育った子どもは将来配偶者に暴力をふるうようになる→教育上よろしくない」というリクツですね。
正直なところ、あなたが日常的に奥さんに暴力をふるっていたというのであれば、保護命令を出されてしまっても文句をいえるものではありません。よく、DV加害者は、「妻が悪いので殴った→妻が私に殴らせた」なんてことを主張しますが、はっきり言ってそんな主張はダメです。裁判官も、「あ~あ、典型的なDV夫だよ!」と思うだけで、粛々と保護命令を出してしまいます。そして、保護命令が出ればあなたは親権争いで圧倒的に不利な立場になります(お子さんが奥さんと一緒に住んでいてあなたと別居している場合、お子さんに対する接近禁止も合わせて申し立てられるでしょうしね)。
しかし、あなたが以下のような場合は、敢然と立ち向かうべきだと思います。
①まったく暴力について身に覚えのない場合
②確かに、多少有形力を加えたかもしれないが、それは妻が先に暴力をふるってきたからで、その暴力を止めただけの場合
あなたは、「ネットでも調べてみたけど、保護命令って簡単に出ちゃうんでしょ?」、「通常は裁判所に呼び出されたら、即日出されるみたいだけど??」なんて諦めていないでしょうか?
確かに、保護命令は出やすいものです。加害者が暴力の事実を認めてしまうと、加害者の呼び出し期日に即保護命令が出ます。しかし、あなたがネットでも見たように、被害者の言い分だけで簡単に出されてしまう保護命令のあり方には批判が多々あり、現在は裁判所も慎重になっている様子がうかがえます。
では、どうしたらいいのか。まず、保護命令が申し立てられたので期日に来てほしい旨の呼出状を裁判所から受け取ったら、期日までに答弁書を書いて提出しましょう。この場合の答弁書は、民事訴訟の「詳細は追って主張する。」などという簡単なものではダメで、詳細はその答弁書にみっちり書かなくてはいけません。なぜなら、民事訴訟は期日が何回も開かれることが想定されていますが、保護命令の期日は1回限りかもしれない(法文上はあなたの言い分を聞かなくても保護命令は出せるのです)からです。
次に答弁書の内容ですが、とにかく自分は暴力をふるっていない(もしくは妻の暴力を止めただけだ)ということを主張しなくてはならないのはもちろんのこと、なぜそのようにいえるのか論理的に説明したり、証拠(正確には疎明資料)を出したりする必要があります。証拠はなかなかないかもしれませんが、例えばある日妻があなたに顔を殴られて青タンができて一週間ぐらい治らなかったなんて主張しているのに、その翌日に家族旅行に出かけてツルツルニコニコ顔の妻の写真がある、などというのは大きな証拠です。家族の写真や画像データ、動画データの類はぜひ探してみてくださいね。
また、妻が出した申立書を穴があくくらい読みこんで、どこかに論理矛盾を来していないか、不自然な点はないかを探します。妻側とするとウソの暴力をでっちあげなければならないわけですから、どこか不自然だったり矛盾が出てきたりするのです。これも徹底的に叩いてください。
大体、1週間以内に答弁書を書かなければいけないので、大変といえば大変なのですが、何といっても愛するわが子と将来の有利な離婚のためです。気合を入れて頑張りましょう。とても一人では太刀打ちできないと思ったら弁護士に依頼しましょう。ご自分で書かれると、私が上に書いたような「ヨメが俺に殴らせた」みたいな意味のない答弁書になる恐れがあります。これでは何のために答弁書を出すのかわかりません。そこまでひどくなくても、感情が入りすぎてかえってウソっぽい主張になってしまう可能性は大です。少なくとも誰か法律のわかる第三者に見てもらいましょうね。
ちなみにそのあとの流れですが、答弁書を出したあなたは保護命令の期日に出席します。あらかじめ答弁書に書いた内容を裁判官に話せばよいのですが、裁判官はもっと細かな点を質問してくるかもしれません。しかし、暴力をふるっていないあなたは正直に答えればよいのです。緊張しないで堂々と答えましょう。
その後、あなたの主張に少しでも正当性があると認められれば、もう一度妻側が裁判所に呼び出されます。ここで裁判官が、「旦那さんはこう言っているんだけどどうなんですか?」と妻側に確認してくれます。ここで、裁判官が、妻側の主張が正しい(すなわちあなたの暴力があった)と判断すれば、保護命令が出ますし、あなたの主張が正しいと認められれば申立てが却下されます。いまひとつ確信が持てない場合は、またあなたが呼び出されます。しかし、3回以上呼び出されるケースは寡聞にして知りません。一回一回の期日を大切にしてください。
なお、妻側に弁護士がついている場合、妻の言ってることがウソっぽいと弁護士が判断すれば、申立てが却下されるまえに取り下げてくれます。というのも、もし申立てが却下されれば、今度は「妻はウソつき」という致命的なお墨付きを裁判所が出す結果になってしまうからです(笑)。「ウソつき」はちょっと言い過ぎましたが、本来、シュッと出るはずの保護命令が、夫の暴力はなかったなんて理由で却下されるなんてよっぽどですからね。
保護命令の申立書は地域の女性支援センター(名称はさまざまですが)で書き方を綿密に指導しているので、妻側に代理人がついていないケースが多いのです。とすると、取り下げないで却下されることもあるでしょうしね。そうなると答弁書を出した甲斐があったというものです。
たしかに、裁判所がDV法の旧態依然の運用をしていたり、こちらの手持ち証拠が不十分だったりして、妻の言い分通りに保護命令が出されてしまう可能性がないともいえません。しかし、やらないで後悔するよりは、全力でやって後悔しましょう。
弁護士 太田香清