夏らしいお天気が続いておりますがみなさんお元気でしょうか。お子様がおられるご家庭では、お子様の夏休みということで海や山へのお出かけもあることでしょうね。

 しかし、離婚を機にこのような楽しいお子様との時間が突如奪われてしまうことがあります。そう、親権問題です。離婚の際の親権争いでは弱い、弱いといわれてきた男性にとっては特に深刻な問題ではないでしょうか。これから数回にわたって、離婚の際に男性側が親権をなるべくとれるようにするにはどうしたらよいかを考えてみようと思います。

 その前に、一つお話しておきたいことがあります。それは、依然として男性は親権争いにおいて不利であるということです。おそらく、男性と女性とで養育条件がそう変わらないのであれば、裁判所は女性側に親権を認めることになるでしょう。家裁が親権者を決めるにあたって「母性優先の原則」というものがありますが、これが一般に男性不利と言われるゆえんであり、今もこの原則は生きているということです。

 とはいえ、ここ数年の傾向というか私の実感なのですが、この「母性優先の原則」が以前より強く働かなくなってきたのではないか?と思うのです。

 私が某家庭裁判所で修習中に、「珍しく男性側が審判で親権をとったケースがあるんですよ~。」と裁判官に言われ、みんなで争うようにして(というくらい、珍しかったわけです)当該記録を見た記憶があります。ずいぶん前のことなので詳細は忘れましたが、その記録の男性は育児・家事を完璧にこなしており、仕事も自らの出世を放棄して育児のために早く帰宅するようにしたとのことでした。一方、女性側は同居時からあまり育児・家事をやっていなかったようです。このように、男性が親権を獲得する事例というのは、①同居時から主に男性が育児・家事を担っており、②一方、女性がほとんど育児・家事をしておらず、③別居後も男性が子ども中心の生活をしている、というごくまれなケースだという認識がありました。おそらく、この認識は当時の法曹界の認識とそうずれているものではなかったと思います。ですので、私も、以前は男性側から親権について相談があると、「それは難しいですね。」、「何とか離婚しない方向でいくしか・・・。」などと答えていました。今考えると本当に申し訳ない限りです。

 しかし、私は先に、『「母性優先の原則」が以前より強く働かなくなってきたのではないか?』と書きました。最近はどうも、上記①~③を満たしていないケースでも男性が親権を獲得する事例が増えているように思うのです。別に統計をとったわけではなく、見聞きしたお話や自分が担当した事件などからの実感なのですが、少なくとも、「男性?ハイ、負け!」ということはありません。ですから、ろくろく人の話も聞かないで、「男性の親権?あきらめなさい。」などという弁護士は早めに見限りましょう。

 とはいえ、不貞の証拠集めもそうなのですが、親権の獲得もきっちりと計画的に考えた方がよさそうです。もっとも、何の前触れもないのに将来離婚話になりそうだというのを前もって予知して長期計画を立てるのは難しいですので(笑)、今日は、絶対にこれだけは!というポイントをお話します。

 まず、離婚する夫婦において、何の前触れもなくいきなり離婚というのはおそらくあまりなく、まずは別居する・しないのお話になるんじゃないかと思います。奥さんが出て行くのでもご自身が出ていくのでも構いませんが、まずは別居です。別居しないで離婚の協議をしていただいても一向に構わないわけですが、そういう事案は何の問題もなくすっと協議離婚できる事案で、親権に関してもそう問題にはならないのかと思います。別居せずに協議離婚しようとしていたとしても、子どもの親権で揉め始めるとやはり同居していたのではつらいものがあります。

 さて、とにかく別居することになったとする。その際の注意点ですが、絶対に子どもさんとは別居しないようにしてください。「今はヨメと子どもが一緒に住むけど、後から取り戻すから大丈夫!」なんて気軽に考えないことです。

 というのも、後からお子さんを取り戻すのは結構大変だからなのです。お子さんと別居している場合、まず、監護者指定の審判と子の引渡しの審判(及びそれらの仮処分)を申し立てることになりますが、こんな手続が1個(形式的には4個です・・・)余分に増えるだけで重労働になってしまいます。ヘタするとこれらの審判や仮処分の申立てを思いつかない弁護士すらいますが、早い時期にこれらの申立てをしてお子さんを手元に取り返しておかなければアウトになる可能性が高まります(ですので、これらの申立てが思いつかないような弁護士も早めに見限ってしまいましょう)。

 それともう1点ですが、仮に監護者指定の審判と子の引渡しの審判(及びそれらの仮処分)を申立てたとします。このときの審判・仮処分の結果は実質的にのちの親権の判断に影響を与えることになります。ようするに、審判・仮処分で負けたとすると、後の離婚訴訟で親権を争っても負けてしまう可能性が大変高いということです(もちろん勝てばいいのですが、先に書いたように男性・女性でほぼ同条件なら女性が勝つ可能性が高いと思われるので、「よし、別居ならばガンガン申立てましょう!」と言うのは躊躇します)。

 なるべくそんな審判・仮処分を自ら申立てなければならないという事態を避けるために、とにかく絶対に子どもさんは手元に置いてください。とはいえ、別居後にお子さんを奥さんから奪うようなことをするとそれはそれで不利になりますので、別居時が肝心です。

弁護士 太田香清