こんにちは。今日は涼しい日でしたね。今日は日本一暑いと言われる熊谷に行ってきたのですが、熊谷でさえ、涼しかったです。

 さて、本日は、久々に、監護者指定関係の話です。

 今日の熊谷の事件も、監護者指定の調停だったのですが、その調停で、調査官が、「監護者指定の調停をやっている時に、子供を連れ去ったりすれば、それだけでその連れ去った人には不利な事情になるでしょう。だから、面接交渉をさせるときに、まさか連れ去られるなんていうことはないでしょう。双方とも代理人がついていますし、心配しなくてもいいですよ。」と言っていました。

 たしかに、常識的に考えればそうなのですが、中には、想定外なことに、連れ去ってしまう人もいるのです。そして、裁判所は、「連れ去り」という事実をもって、その連れ去った当事者を不利に扱うことが多いのですが、単に「連れ去り」の事実のみで監護者としての適否を判断しているわけではないので、「監護者指定の審判を申し立てたから、大丈夫」とは言えないとも考えられます。

 監護者指定審判の手続き中に、連れ去りをした以下のような案件があります。

 事案は、妻が子供を監護している状態で、夫から監護者指定審判及び審判前の保全処分申立と、夫婦関係調整調停申立がなされ、これらが係属している間に、夫が、通園バスを待っていた子供を車に乗せて連れ去ったという事案です。なお、調停で、調停委員は夫に対し「実力で子供を奪わないように」という警告をしていました。その後、夫は審判及び保全処分申立てを取り下げ、妻が、監護者指定及び審判前の保全処分を申立てました。

 東京高等裁判所は、次のように述べて、妻を監護者と定めました(東京高等裁判所平成17年6月28日決定)。

 「前記奪取行為がされた時点においては、相手方から抗告人との夫婦関係の調整を求める調停が申し立てられていたのみならず、事件本人の監護者を相手方に定める審判の申立て及び審判前の保全処分の申立てがされており、これらの事件についての調停が続けられていたのであるから、その中で相手方と事件本人との面接交渉についての話合いや検討が可能であり、それを待たずに強引に事件本人に衝撃を与える態様で同人を奪取する行為に出たことには何らの正当性も見出すことはできない。」

 「このような状況の下で事件本人の監護者を相手方と定めることは、前記明らかな違法行為をあたかも追認することになるのであるから、そのようなことが許される場合は、特にそれをしなければ事件本人の福祉が害されることがあきらかといえるような特段の状況が認められる場合に限られると言うべきである。」

(注:文中の「抗告人」は妻、「相手方」は夫、「事件本人」は子どもの事です。)

 このように、裁判所は、「強引に事件本人に衝撃を与える態様で同人を奪取する行為に出た」ことに着目し、それを「明らかな違法行為」としています。つまり、裁判所は、奪取の方法の激しさを検討したうえで、違法性の度合いを判断し、結論を出しています。

 このほかの子どもの連れ去り事案でも、参考書等に載っているのは、ほとんどが、連れ去り方が暴力的なものであり、「それじゃあ、やり方が暴力的でなく、一見平穏な巧妙なものならば、連れ去ってもよいのか?」と疑問が残ります。以上のような理由で、「監護者指定の審判を申し立てたから、大丈夫」と安心してしまうこともできないと考えるのです。