皆様、こんにちは。弁護士の長田です。
 今回からブログを書くこととなりました。よろしくお願いします。

 これまで本ブログでも婚姻費用について数多く触れられてきていますが、簡単に説明します。

 婚姻関係にある夫婦は、相互に同居義務や扶助義務を負っているところ(民法752条)、婚姻した夫婦と子の生活費(婚姻費用)については、その資産、収入、社会的地位その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担することとされています(民法760条)。

 通常問題となるのは、離婚前に別居を始めてから離婚が成立するまでの婚姻費用をどのように分担するかという点です。

 では、別居時に、婚姻費用分担権利者(婚姻費用を受け取る側。以下「権利者」といいます。)が夫婦共有財産を持ち出して出て行ってしまった場合、婚姻費用分担義務者(婚姻費用を支払う側。以下「義務者」といいます。)は、これを実質的な婚姻費用の前払いであるとして分担を拒めるでしょうか。

 この点、夫婦共有財産が権利者の管理下にある場合に、分担義務がないと判断された事例があります(札幌高決平16年5月31日)。

 簡単に事案を説明すると、権利者である妻(年収約250万円)が、子ども2人を連れて家を出て行く際、夫婦で築いた預金約550万円を持ち出していきました。その後、妻が義務者である夫(年収約430万円)に対し、婚姻費用分担調停を申し立てたというものです。

 原審判は、妻が持ち出した預金を考慮せず、標準的な割合や平均的な生活指数を基礎にして算出し、月7万円の婚姻費用の支払いを命じました。

 これに対し、抗告審では、以下のように述べて、妻の申立てを却下しています。

「申立人(妻)が共有財産である預金を持ち出し、これを払い戻して生活費に充てることができる状態にあり、相手方(夫)もこれを容認しているにもかかわらず、さらに相手方(夫)に婚姻費用の分担を命じることは、相手方(夫)に酷な結果を招くものといわざるを得ず、預金から住宅ローンの支払いに充てられる部分を除いた額の少なくとも2分の1は相手方(夫)が申立人(妻)に婚姻費用としてすでに支払い、将来その支払いに充てるものとして取り扱うのが当事者の衡平に適うものと解する。」

 したがって、この抗告審の判断によれば、別居時に夫婦の共有財産を持ち出されてしまった義務者は、婚姻費用の前払いをしていると主張し、婚姻費用の分担を拒めることになります。

 ただし、上記の決定がどんな場合でも当てはまるとはいえません。

 むしろ算定表ができてから、家裁では、ストック(共有財産)については財産分与で、婚姻費用はフローで考えるというのが基本的なスタンスです。

 従って、上記抗告審決定を利用する場合には、注意が必要です。