皆様、こんにちは。
1 イントロ
家事事件では、夫婦間で子の監護をめぐり紛争となることが多々あります。
離婚前は監護権、離婚時には親権の取り合いということになります。
しかし、その判断基準はなかなかに難しく、裁判所でも画一的な判断は難しいようです。
2 事案の概要
実家に帰って別居を開始した妻が二人の子供(長女6歳、長男4歳)を事実上監護している夫に対して監護者の指定と子の引き渡しを求めた事案です。同時期に夫の方も、離婚と親権を求めて調停を申し立てていました。この間、妻は子供達と数度面会をすることができました。
3 審判の推移
家庭裁判所での審判は、妻を監護者として子の引き渡しを命じました。詳細は不明ですが、家庭裁判所調査官が作成した調査報告書が判断の資料となったようです。夫妻双方の実家の家庭状況は同じで、母親の方が愛情深く接しており、子供たちに安定感を与えていることが理由とされていました。
夫はこの審判に対して、審問を行わなかったこと、母親優先の原則に思い込みがあること、子の利益にそぐわないこと等を理由に、即時抗告(不服申し立てのような手続です。)を行いました。
東京高等裁判所が抗告審として前審の適否を判断したところ、抗告は棄却されました(平成15年7月15日決定・判タ1131号228頁)。
東京高裁は、当事者双方の審問を行うことが望ましいこと、調査報告書において本件の子どもたちに母性を必要としている根拠が明らかでないことと認めました。しかし、調査官は当事者双方や幼稚園の教諭と面接を行ったことやその他関係資料が提出されていたことから、審判をやり直す程のものではないと判断しました。また、母親優先にとらわれているという指摘に対しては、母性に日常的に接することが子の最善に利益であるとして、夫側の主張を退けました。
4 まとめ
実際に子の監護者を判断する際には、上記の事件のように裁判所調査官が各当事者や子供本人らと面接をして、その聴取内容を報告書にまとめます。この報告書には調査官の意見を記載することができることから、家庭裁判所の審判官(裁判官のことです。)の判断は調査官の意見にかなりの影響を受けることがあると思われます。
当事者の意見は、大抵、書面の形式で提出することになるので、審判官も目を通しているはずです。ただし、その意見は調査官の報告書というフィルターを介することになるため、自分の希望が通らなかった場合に、調査官に対する不満がつのるのだろうと思います。
なお、今回紹介した審判例は、研究者や実務家の評釈で縷々批判されているようです。特に抗告審が母性優先の原則を無理矢理論じて前審の判断を維持してしまったところに、裁判所が書面中心の審理の悪いところが出たという指摘が気になりました。
さて、今年の5月に家事事件手続法が成立しました。同法65条には、子に影響のある家事審判の手続においては、「子の陳述の聴取等の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。」ものとされています。
元々、家事審判規則で子の陳述を聞くことを求めた規定はありましたが、書きぶりが何となく丁寧になったように見えます。
しかし、子の年齢によって、子の意見への重きの置き方を審判官の裁量で変えられる余地があることが明確に認められたことも意味します。お腹を痛めた母親の苦労はどこかで報われるべきだとは思いますが、少なくとも誰が子の監護をすべきか判断する場面ではないという気がします。裁判所の職責は重いですが、公正な判断を今後もお願いしたいです。
今回もお付き合いいただきましてありがとうございました。