家庭裁判所は、家事審判法第9条の審判の申立てがあった場合においては、仮差押え、仮処分、財産の管理者の選任その他必要な保全処分を命じることができます(家事審判法第15条の3第1項)。

 審判確定を待っていたのでは強制執行による権利の実現が困難になるような場合には、保全処分の申し立てを認め、家事審判制度の実効性を確保しています。

 審判前の保全処分の一例としては、子の監護者指定と引き渡しの保全処分があります。審判確定を待っていたのでは時間がかかりすぎ、子が相手方の下にいる状況が既成事実化する場合などには、この保全処分を活用することが考えられます。

 審判前の保全処分の他の例としては、婚姻費用の仮払いがあります。婚姻費用分担の審判確定を待っていたのでは生活費にも事欠くような場合に、先行して保全処分(仮払仮処分)を活用することで、一定額の婚姻費用を、本案の結果が出る前に仮に受け取ることができます。

 審判前の保全処分は他にも種類があり、保全処分をすることができる審判事件といかなる保全処分をすることができるかは、家事審判規則や特別家事審判規則で個別に定められています。

 審判前の保全処分は独立の手続ではなく、本案審判の申立てがある場合にのみすることができます。管轄は、本案審判事件の係属している家庭裁判所ですが、本案審判事件が即時抗告により高等裁判所に係属しているのであるなら、当該高等裁判所の管轄となります(家事審判法第15条の3第5項)。

 審判前の保全処分の申立ては、求める保全処分及び当該保全処分を求める事由を明らかにせねばならず(家事審判規則第15条の2第1項)、当該保全処分を求める事由には、①本案審判認容の蓋然性と②保全の必要性を記載します。