こんにちは。
さて、本日も、監護者指定に絡んだお話です。
監護者指定の一要素に、監護の実績・継続性の尊重というのがあります。監護の実績がある親が監護者としてふさわしい、ということです。
それでは、子どもを連れ去って監護の実績を作り始めたような場合でも、監護の実績があるからということで、その親を監護者として認めてもいいのでしょうか。
まず、「子どもの連れ去り」と聞いて、どのようなものを思い浮かべるでしょうか。子どもが歩いているところをいきなり暴力的に連れ去る、というのがわかりやすいですね。しかし、「子どもの連れ去り」というのは必ずしも暴力的なものに限られません。子どもと面接交渉をした後、非監護者(非親権者)がそのまま子どもを返さない、というのも連れ去りの一種です。しかしどこまでだったら許されるのか、難しい問題です。
監護者指定との関係で考えると、子どもを連れてきた手段・態様の違法性は、監護者指定の一要素となります。仮に連れ去ってきた後に、子どもがその連れ去りをした親の下で安定した生活を送るようになっても、それは連れ去りの結果であって、必ずしも監護の実績が正当なものと認められるわけではありません。
例えば、以下のような例があります。
ある夫婦が、離婚調停中、勝手に連れ去らないという約束をしていました。妻の下で子どもが安定的に監護されていたにもかかわらず、その約束に反して、夫が妻の下から3歳の子どもを連れ去りました。2ヶ月経過したところで、妻が申し立てた子の引渡仮処分の中で、妻と子どもとの試行的面接をすることになり、子どもはその妻との面接の際、大泣きをしました。しかし夫に対し、引渡しの仮処分が命じられました(横浜家審平成14年10月28日)。
この例では、子どもが妻との面接で大泣きしているのだから、一見、妻よりも夫の監護の下で養育を続けた方がいいのでは?とも思われます。しかし、そもそも、その夫の監護は、夫婦間の約束に反する行為から始まっているので、その違法性が重視されたものと考えられます。
また、連れ去りの違法性の基準として、次のような例もあります。
妻による連れ去りに協力したカウンセラーに対する夫からの損害賠償請求において、「子の引渡しの手段としては本来家事審判等の法的手段によるべきであり、実力行使による子の奪取は、その子が現在過酷な状況に置かれており、法律に定める手続を待っていては子の福祉の見地から許容できない事態が予測されるといった緊急やむを得ない事情にある場合を除いて許されないというべきである。」と述べて、30万円の慰謝料を認めました。
つまり、緊急やむを得ない事情があるような場合を除いては、連れ去りは違法となりうるようです。