今回は、面接交渉の制限が認められた事例についてご紹介します。
以前のブログでご紹介したとおり、面接交渉権は子どもの利益のために認められた重要な権利であるため、面接交渉が子の福祉に反するような事情がなければ、基本的に制限することはできません。
そして、どのような場合に子の福祉に反するような事情があるといえるかについては、子の心身の状況、監護状況、子の意思、年齢、監護教育に及ぼす影響、父母それぞれの意思、葛藤・緊張関係の程度、面接についての父母の協力が可能であるか、申立ての目的、別居信徒の距離などを総合的に考慮して判断されます。
では、例えば、子が「会いたくない」と言っている場合、面接交渉を制限することはできるでしょうか。
前提として、子であっても、10歳前後以上であれば、子の意思が重視されます。しかし、子が会いたくないと言っていても、それは同居している親や祖父母等に別居している親の悪口を吹き込まれているせいだったり、同居している親に気を遣っているせいだったり、会うことによって軋轢が生じることを心配しているせいだったり、という子どもなりの理由がある場合があるため、子の本当の意思を知ることは困難です。
この点、子が母親との面接を拒否していても、面接交渉を認めた事例として以下のものがあります。
この事例では、9歳の男の子、8歳の女の子のいる夫婦が離婚し、父親が自分の両親とともに子らと暮らしており、兄は母親を嫌い、祖母を慕って、父と祖母と生活したいと述べていました。また、妹も兄の考え方に影響を受け、同じように言っていました。ところが、この夫婦が離婚に至ったのは、その祖母が兄の産まれた直後から子育てに口を出して祖母が兄を養育するようになり、この子の養育をめぐる母親と祖母の対立が激化したこと、祖母の肩を持つ夫に対する不信感が大きくなったことが原因でした。また、兄が母親を嫌うようになったのも、祖母が、兄がアレルギーになったのは母親が腐った卵を食べさせたからだとか、祖母自身も母親から毒を飲まされたとか、母親をひぼうするようなことをたくさん聞かされていたせいでした。
この件では、裁判所は、この子らが、今後長期的に見て、真に健全な心身発達を遂げ、年齢に応じた健全な人格形成を図っていくためには、子らと実の母親の間の心的な信頼関係を回復することが必要不可欠であり、そのためには、子らが長期休暇期間中の一定期間母方に宿泊し、特に祖母が立ち会わない形で面接を重ねていくことが適当であると判示しました。子らが母親を嫌う理由となった父親と祖母の態度を戒め、子らが拒否をしていても面接を認めた裁判例として意義があります。
弁護士 堀 真知子