1.総論
昨年末のことですが、われわれ法律家にとっては衝撃的な判決がありました。最高裁大法廷による、平成27年12月16日判決(平成25年(オ)第1079号)です。民法733条1項について、違憲の判断が示されました。
最高裁が、ある法令について違憲を宣言するのは、1947年5月3日の現行憲法施行以来10件目です。68年間で10件と言えば、そのインパクトの大きさをなんとなくわかっていただけるでしょうか。
本日は、この判決について考えてみたいと思います。
なお、同じ日に、民法750条について合憲の判断がされています。これは夫婦が同じ姓を名乗る制度について違憲ではないと示したもので、また格別に論争的なものですが、合憲である以上、実務に影響はあまりありません。そのため、今回は割愛します。
2.最高裁の判断の概要
かなり噛み砕いた内容にしたつもりですが、紹介します。
(1)事案
Aさんは、平成20年3月●日にBさんと離婚し、同年10月●日にCさんと再婚しましたが、民法733条1項によって「女性は前婚から半年間再婚してはならない」旨規定されていなければ、もっと早くにCさんと再婚したはずでした。
AさんがCさんと望む時期に再婚できなかったことについて原因となった民法733条1項は、平成20年の時点で既に違憲であったから、違憲な法律を放置していた立法府(国会)には、民法733条1項を放置していた責任(立法不作為)があるとして、Aさんは、精神的損害等に対する国家賠償請求(国に対する損害賠償請求)を求めました。
対象となった憲法の条文は24条2項と14条1項、Aさんによる請求の金額は165万円と遅延損害金です。
(2)判断
ア 枠組み
民法733条1項が再婚禁止期間について男女の区別をしていることが、事柄の性質上合理的根拠に基づくものでない場合には、憲法14条1項違反である。
民法733条1項は婚姻制度に関する規定であるが、婚姻・家族に関する制度構築について、憲法24条2項は第一次的に国会の合理的裁量にゆだねるとともに、同裁量に一定の限界があることを示した。
国民の意識の多様性・法律婚の意義等々考慮しつつ、憲法24条1項の趣旨にてらせば、いつ誰と結婚するかという自由は十分尊重に値するところ、民法733条1項は婚姻に対する直接的な制約を課すことが内容となっている。
すると、民法733条1項の設ける男女の区別についての違憲審査は、①区別をすることの立法目的に合理的な根拠があり、かつ、②その区別の具体的内容が上記の立法目的との関連において合理性を有するものであるかという観点から行うべきである。
イ あてはめ
① 目的
民法733条1項の目的は、父子関係が早期に明確になることにあり、その重要性にてらせば、目的は合理的である。
DNA検査技術など、みるべき技術の進歩はあるが、科学的判定と裁判手続によって父が確定するまでは父が誰か定まらない子が出てくることを考えれば、科学的判定や裁判手続を経るまでもなく法律上の父が定まる制度を維持することは合理的である。
② 目的と区別の関連性
民法772条1項2項を併せて読むと、「女性の再婚後に生まれる子については、計算上100日の再婚禁止期間を設けることによって、父性の推定の重複が回避される」ことになる。
すると、民法733条1項のうち、100日間女性の再婚を禁止する部分は合理的だが、100日間を超える部分は合理性を欠いた過剰な制約であるので、憲法14条1項と憲法24条2項に違反する。
③ 違憲の時期と国家賠償
民法733条1項のうち100日超過部分は、遅くともAさんがBさんとの前婚を解消した日から100日を経過した時点まで(平成20年6月~7月頃と考えられます。)には違憲となっていた。
しかし、平成7年に最高裁が民法733条1項について違憲の判断をしなかったこと等総合考慮すれば、民法733条1項の規定が平成20年当時違憲であったことが国会にとって明白だったとはいえない。すると、法令の意見が明白であるのに長期間国会が立法を怠ったとはいえないので、国家賠償法上違法とまではいえない。
3.解説
本判決は、民法733条1項について、生まれてくる子に法律上の父を定めようという目的はいいが、制約が強すぎるとし、過剰に制約している部分について違憲と判断したものです。過剰に制約している部分とは、女性が再婚できないと規定されている期間のうち、100日を超える部分です。
もっとも、この判決があったからといって、すぐに民法733条1項が書き換わるわけではありません。国会が新たに民法733条1項を変える立法を行うまで、民法733条1項はこの判決の後も六法に載ったまま存在しています。
しかし、一度最高裁の大法廷でこのような判断が示された以上、女性が前婚から101日以上半年までの間に新たに婚姻届を提出した場合、行政が民法733条1項を理由にこの婚姻届を断ると、それは違憲の法令に基づいた違憲の手続きとして無効、さらに国家賠償請求の対象となり得ます。
法務大臣は、これを回避するために、平成27年12月16日の判決以降、この婚姻届を受け付ける通達を出したようです。
しかし、平成20年当時には民法733条1項は既に違憲だったわけですが、それが明白だったわけではありません。明白に違憲な法律を放置していることが国会の立法不作為として国家賠償請求の対象となりますので、Aさんの請求は結局棄却されてしまいました。
4.では何日待婚すればよいのか
最高裁判決は、民法733条1項のうち、100日までの再婚禁止期間を定めている部分は合憲である旨判断しました。
しかし、民法733条1項は、「女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない」として、女性が半年間再婚してはいけないと書いてあるだけで、条文上「100日」の文言は現れてきません。
そうすると、民法733条1項は、「前婚から100日間を経過した後なら再婚できる」の規定を持っていない以上全体的に違憲無効(この考え方でいくと、離婚したその日から婚姻できます。)なのか、あるいは「半年間は大体180日間程度であって100日間を含んでいるから、残りの80日分が無効になるだけ」という部分的に違憲無効(この考え方でいくと、離婚の日から100日間はやはり再婚できません。)ということになるのかは、まだよくわからないところがあります。
法務大臣の通達は後者の解釈に基づいているようですし、私も個人的な考えですが、その解釈の方が素直のように思います。しかし、一つの条文を数字的に違憲部分と合憲部分とに切り分けることは本当に可能なのでしょうか。
5.今後
いま、最高裁判決が出された以上、民法733条1項(の少なくともある部分)が憲法に違反していることは国会にとって明白となりました。したがって、民法733条1項について、再婚禁止期間を廃止ないし短縮する立法措置を早期に行わないと、つぎに民法733条1項違反による国家賠償請求がされた場合には、今度は請求が認められる可能性があります。