調停調書に記載されたことは、その記載が強制執行に適するものであれば、義務者が任意に履行しない場合、強制執行することができます。
もっとも、調停調書は、親族との間の決め事であることが多く、できれば、相手の任意の履行によって円満に解決したいところではあります。
以下では、調停で記載されたことを義務者が任意に履行しない場合、権利者が利用できる制度を見ていきます。
1 履行勧告
家庭裁判所は、権利者の申出があるとき、調停で認められた義務の履行状況を調査して、義務者に対して、その義務の履行を説得したり、勧告したりすることができます。
例えば、調停で金銭の支払いが決められたのに支払われない場合や、面会交流の取り決めをしたのに子どもに会わせてくれない場合に履行勧告を利用します。
履行勧告の利用方法は、裁判所に口頭または電話で履行勧告をしたい旨を伝えるだけです。履行勧告をしたい旨伝えると、担当者が履行勧告の手続を行います。
費用はかかりません。
注意点は、履行勧告に強制力がないことです。義務者が履行勧告に応じないと、以下の強制執行を利用せざるを得なくなります。
2 強制執行
⑴ 直接強制
直接強制は、権利者の申立てにより、裁判所が義務者の財産を差し押さえ、その財産の中から満足を得るための手続です。
この手続は、不動産に関する請求、金銭支払いに関する請求等財産の支払いを確保したいときに利用します。
調停調書を家庭裁判所に申請して交付を受け、その他必要書類をそろえて、申し立てます。
費用は、手数料と郵便切手代が必要です。
養育費や婚姻費用の強制執行は、一般の差し押えに比べて差し押さえ可能な範囲が拡大されています。また、一般の請求権は、支払期限が到来していないと強制執行を利用することはできませんが、養育費請求権等については、一部不履行があれば、支払期限が到来していないものであっても、差し押さえをすることができます。
義務者の給料や家賃収入等の継続的に支払われる金銭につき、将来分の養育費等を差し押さえることが可能です。
⑵ 間接強制
間接強制とは、債務を履行しない義務者に対し、一定の期間内に履行しなければその債務とは別に間接強制金を課すことを警告した決定をすることで義務者に心理的圧迫を加え、自発的な支払を促す手続です。
金銭支払いについては、上記の直接強制を利用しますが、子の引渡しや面会交流では、間接強制を利用することがありえます。
例えば、何日以内に子供を引き渡さないときは、1日当たり〇〇万円を支払えと命じて、間接的に子どもの引渡しを強制します。
ただし、間接強制をするには、子どもの引渡し日時、場所等義務内容を特定する必要があり、強制執行可能な取り決めをしていることは少ないようです。
調停が終わっても、相手が任意履行しないことは十分にあり得ます。調停後のことに不安がある方、是非お気軽にご相談ください。
弁護士 江森 瑠美