不貞による慰謝料の請求を受けたとの相談の中でよく耳にするのが、「相手が会社にバラすと言って脅されている」との内容です。奥さんにバラされるのはもちろん問題なのだけれども、それ以上に会社にバレてクビになるのはもっと困る・・・と。

 この問題、2つの方向から考察してみたいと思います。
 1つ目は、「不倫したことが会社にばれると不利益となるのか」、言い換えると「従業員が不倫をしたことで会社はどのような対応をとることができるのか」という点。
 もう1つは、「ある人が不倫していることを、その人の職場に通報することが問題とならないのか」という点です。

 まず1点目。これは、不倫が社会的な制裁をどこまで受けるべき行為であるといえるのかという問題とリンクするものです。
 その昔、日本の刑法には「姦通罪」という犯罪類型が規定されていました。すなわち、「有夫ノ婦姦通シタルトキハ二年以下ノ懲役ニ處ス其相姦シタル者亦同シ」とされ、既婚者の女性が夫以外の男性と関係を持つと、最大で懲役2年の刑罰が科せられたのです。
 この規定は終戦後間もなく廃止され、不倫は「犯罪」ではなくなりました。その結果、現在、不倫をしたことに関する問題は、当事者間、すなわち夫婦および不倫の相手方との間で民事的に解決されるべきものとされているわけです。

 そこで本題ですが、従業員が不倫に走った場合に、会社としては従業員に何らかの制裁を加えることができるのでしょうか。
 厚生労働省がインターネットで公開している「モデル就業規則」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/model/dl/model.pdf)を見てみましょう。この61条に、懲戒の事由が列挙されています。そこでは、無断欠勤や経歴詐称などが懲戒事由として挙げられており、「素行不良で社内の秩序及び風紀を乱した」とか「私生活上の非違行為・・・であって、会社の名誉を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき」などの条項はこの問題と関係してきそうです。
 もっとも、会社と無関係な不倫行為が「社内の秩序及び風紀を乱」したり、「業務に重大な悪影響を及ぼ」すことはあまり想定できません。基本的に不倫が懲戒事由に 該当するとは考えにくいでしょう(ただし、社内不倫の場合は、風紀違反や「性的な行為・・・により他の労働者の業務に支障を与えた」、あるいは、場合によっては 「職責を利用して交際を強要し、又は性的な関係を強要」したとして、一発で懲戒処分を受けてしまう可能性が否定できません)。
 そうでないとしても、昇進や配転などで、事実上の不利益を受けてしまう可能性が全くないとは言い切れないでしょう。会社での業務と無関係な私生活上の事情を勘案し、一種の制裁として業務命令を発動したことが明らかであれば、当該命令は違法であると評価され得ますが(特に配転につき、東亜ペイント事件最高裁判決(昭和61年7月14日)参照)、業務命令の動機を事後的に詳細に立証することは極めて難しいことが少なくありません。

 さて、2点目の問題として、「不倫相手方の就業先に対し、不倫の事実を報告することが許されるのか」というポイントについても少し触れておきましょう。
 (会社外での)従業員の不倫を理由として、会社内で処分を行うことが許されないのは上述のとおりです。男女関係は極めて私的な問題であって、ほとんどの場合はこれを公にする公益性を有しないでしょうから、かかる報告が、対象者の名誉を傷つけるものとして、名誉毀損の罪が成立してしまう可能性があるといえますし、対象者が何らかの不利益を被った場合、報告者に対して不法行為に基づく損害賠償請求が可能となる場合もあります。

 報復の意図をもって就業先に事実関係を暴露する行為は、不倫問題に端を発した大問題に発展しかねませんし、場合によっては、慰謝料を請求していこうとする側が著しく不利な立場に立たされてしまう可能性も否定できません。くれぐれも、先走った行動に出る前に、専門家のアドバイスを受けるようにしてくださいね。