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 最近私の身近では介護が話題になることが多いのですが、これから高齢化社会を迎え、さらに増加が予想される老人性認知症について、これを理由とする離婚請求は認められるのでしょうか。

 民法では、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと」(770条1項4号)を離婚原因として定めていますが、ここでいう「強度の精神病」とは夫婦の協力扶助義務を十分に果たすことができない程度の精神障害をいいます。民法770条1項1号から4号は、5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」の例示であるというのが通説的な見解ですので、4号にいう「回復の見込みのない強度の精神病」にあたらない程度の精神病であっても、そのために婚姻関係が破綻している場合には、5号の離婚原因にあたりうると解されています。

 認知症といってもその症状は様々ですし、これを一概に「強度の精神病」と言うことには抵抗がありますが、重度の認知症にかかって自分の配偶者さえわからなくなってしまったような場合には、夫婦の精神的交流ができなくなってしまっている点で、強度の精神病と同じであるとも考えられます。

 この点について一つの判断を示した裁判例をご紹介します。

 この事案では、妻が50歳のころから認知症(アルツハイマー症)とパーキンソン病にかかり、約5年間夫が妻の世話をしていました。妻は1級の身体障害で寝たきりの状態であるうえ、精神障害の程度は重度で回復の見込みがなく(通常の会話もできず、夫のことも分からない状態)、公立の特別養護老人ホームに入所していました。

 これらの事情のもとで、夫が離婚請求をしたところ、裁判所は、妻の病気が民法770条1項4号の「強度の精神病」に該当するか否かについては疑問が残るとしたものの、妻が病気のため長期間にわたり夫婦間の協力義務を全く果たせないでいることなどによって婚姻関係が破綻していることが明らかであるとして、本条項5号に基づく離婚請求を認めました(長野地裁平成2年9月17日判決)。

 ただし、この裁判例においては、夫が妻より16歳年下でまだ若く再婚を考えていること、妻は離婚後も全額公費負担で完全介護を受けられること等の事実が併せ考慮されており、さらに、妻の病状が非常に重く、夫がこれまで可能な限りの療養・看護を尽くしていたという事情も考慮されたと考えられます。したがって、夫婦の一方が認知症にかかったからといって、必ずしも同じ判断が下されるわけではありませんが、これからの高齢化社会で増加が予想される離婚原因について参考となる事例であると思われます。

弁護士 堀真知子