色々な原因で離婚したいという話を聞きます。しかし、離婚は、相手方が同意しない場合には、離婚原因がないとできません。離婚原因は、民法770条1項に規定されています。
裁判では、配偶者の不貞行為、配偶者による悪意の遺棄、配偶者の3年以上の生死不明、配偶者の強度の精神病及び回復見込みの不存在、その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるときしか離婚できません。
私が相談を受けた中では、離婚したい理由として、性格の不一致、暴言などが多いように思われます。
ただし、裁判所は、770条1項5号のその他婚姻を継続しがたい重大な事由をなかなか認めてくれない傾向にあると思われます。そこで、今回は、一例として、大阪高等裁判所平成21年5月26日判決を紹介します。
本件は、夫が、妻に対し、妻が夫の先妻の位牌を夫と先妻との間の子の妻の実家に送付したり、夫のアルバムを廃棄したり、夫に対して悪口雑言を浴びせたりしたことを理由に離婚を求めた事案です。
この夫婦の婚姻期間は、約19年であり、20歳を超える子ども1人がいるのみでした。他方、別居期間はわずか1年間でした。
なお、夫には先妻がいましたが、妻と同居するに際して、妻の要求により、自宅を改装し、先妻の生活のにおいを残す持ち物を処分し、お祓いをしたようです。
この夫婦間で諍いが始まったのは夫が経営していた会社が倒産した婚姻7年後のことからです。生活費として50万円の支払をしていたようですが30万円しか支払えなくなってしまいました。それでも多いと思いますが、妻はこれに不満を述べたそうです。
妻は次第に食事を一緒にしないようになり、又、夫のための食事の準備をせず、自室で過ごすようになりました。次第に妻と夫の生活リズムがずれるようになり、口論が絶えなくなりました。婚姻18年目を迎えたころ、妻は、前触れもなく先妻の位牌を、夫と先妻との間の子の妻の実家に送りつけ、夫のアルバム10数冊を焼却処分したりするようになりました。夫が妻を問い詰めても妻は居直り、すぐに口論となってしまうような状況になりました。そして夫は離婚を決意して別居を始めたのでした。
このように事情を見てみると、夫は非常にかわいそうであり、当然のこととして、離婚を認めてあげても良いと思います。結論として、判決は離婚を認めましたが、理由中では、この夫婦の結婚生活は夫婦破綻を来たすような大きな波風の立たないまま約18年間の経過をみてきたのに、別居するに至ったのは妻の上記のような一連言動が主な理由であるが、双方の年齢、家族関係、婚姻期間等だけを取り上げて論ずれば、今十分に婚姻関係が修復できる余地があるとの見方も成り立つとしました。
ただし、その上で、本件妻の言動は夫の人生に対する配慮を欠いた行為であって、夫の人生で最も屈辱的出来事としてその心情を深く傷つけるものであったこと、妻がこのような行動に及んだ合理的な理由がないこと、妻が夫の精神的打撃を理解せず、関係修復の努力をしないことなどを考慮して、夫婦関係が破たんしていると認定しました。
このように、不貞行為のような確固たる離婚原因がある場合は別として、離婚について争いがあるとき、裁判所に離婚を認めてもらうことは至難なことなのです。
私はこれで年内は最後となります。良いお年をお迎えください。
弁護士 松木隆佳