皆様、こんにちは。

1 イントロ

 調停や審判等で養育費の支払い内容を決めてもらったけれども、相手方が養育費を支払わなくなった場合、回収方法の一つとして強制執行手続が挙げられます。

 中でも養育費を回収するための差押えについては特例等があり、少しでも監護親が養育しやすくなるように配慮されています。今回はその特徴について少し紹介させていただきます。

2 差押えのおおまかなイメージ

 (1)強制執行は一般に債務者の財産を差し押さえて、換価、配当する手続といわれています。

 養育費についてみれば、養育費の支払い義務者の財産を差押えて、現金化しなければならないものについては現金化し、請求する側(監護親)に対して配当されることになります。

 (2)差押えの対象となる財産として典型的なものは、預金と給与かと思われます。

 前提として、金融機関や預金口座の特定ができていること、相手の勤務先等がわかっていることが必要です。

 では、この前提がクリアできていればこれまでの養育費の未払い分を一気に全部回収できるのでしょうか?

 実は、給与債権は4分の3に相当する部分は差押え禁止とされています(民事執行法152条)。つまり、通常、給料の4分の1までしか差押えられません。

 もっとも、高額所得者については、差押え禁止の上限が「標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額」とされており、2009年5月時点で33万円までとされています。つまり、給与の4分の3の金額が33万円以上となる相手に対しては、給与額から33万円を差し引いた金額を差し押さえることができます。なお、退職金にも4分の1までしか取れないという制限がかけられており、こちらは所得の過多にかかわらず一律同じ扱いです。

3 養育費の特例

 (1)先ほど給与等は4分の1までしか差押えられないと記載しましたが、養育費のための差押えの場合には2分の1までに拡大されます(民事執行法152条3項)。これはボーナスや退職金も同じ扱いです。

 ただし、相手方が生活できなくなってしまうなど具体的な生活状況において妥当でない場合には、差押え禁止の範囲を変更する申立てを行うことができる(民事執行法153条1項)ので、絶対に2分の1のまま取り続けられるわけではありません。

 (一般的には、差押え手続によって満足を得る請求権は、確定期限が到来していなければならず、強制執行を開始のための要件とされています。

 しかしながら、養育費に関しては、日々生活費が発生していることからすると、いちいち次月の養育費の未払いが生じるのを待って、その都度強制執行の申立てを行わなければならないのはあまりに面倒です。

 そこで、養育費のような定期金債権について一部不履行が発生した場合に、期限が到来していない(養育費の)部分についても一緒にして強制執行を開始することができるという特例が定められています(民事執行法151条の2第1項)。この特例が適用されるのは、婚姻費用や養育費です。財産分与は対象外となります。

 ただし、気をつけなければならないのは、この特例はあくまで手続を始めることが許されるだけに止まります。例えば、給与の差押えをした場合、勤務先としては、給料日が到来してから差押債権者(養育費の請求権者)からの取り立てに応じればよいとされています。つまり、相手の給料日前からお金をもらうことまではできません。

 また、特例下で差押えが認められる対象は、給与等、継続的給付がなされるものに限定されます(民事執行法151条の2第2項)。

4 最後に

 これまでの説明ではわかりにくかったかもしれませんが、種々の特例によって、養育費の支払われなくなった場合には、相手の給与を継続的に差押えられるようになっています。請求する側にとっては心強い限りですね。他方、義務者にとっては、勤務先に養育費を払ってないことが知られてしまうプレッシャーを感じることになります。

 怖いのは相手方がいきなり勤務先を退職して、行方がわからなくなってしまうことです。預金もとっくに引き出されていることでしょう。

 給与の差押えは、相手に対する溜飲を下げるという意味でも効果的かもしれませんが、追い詰めすぎには注意しましょう。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。