養育費については、だいぶ前に、「離婚6」、「離婚7」の回で述べましたが、そこでは触れられなかった事項について、今回、言及してみようと思います。

 監護親から非監護親に対する養育費分担請求の額については、実務上、算定表により定められる場合が多いのですが、その際、何といっても、双方の収入額が重要となってきます。

 重要というか、それさえあれば機械的に決まるとさえ言えるかもしれません。それは、支払義務者と権利者の収入から割り出される養育費分担額が、約3万円の幅のあるものであり、個々の事案の個性の多様さは、標準化した算定表の上記幅の範囲内で十分考慮されうると解されているからです。

 したがって、双方の収入額からくる3万円の幅を超える額や満たない額を認定してもらおうとすると、これを主張する側で、特別な事情をかなり積極的に立証していくことが求められるわけです。

 ということは、逆に言えば、双方の収入額さえわかれば、余程の特別事情を立証できない限り、ほぼ機械的に、養育費分担額が決まってしまうことを意味します。すると、どんなことが生じますか。そう、収入額を証する資料が出されてしまえば、そこから、早々に養育費の額が決められてしまい、後から収入額はその後下がるとか、こういった特別の負担があるとか、あれこれ立証しようとしても、めったに聞いてもらえないという事態になるのです。

 したがって、言われるがままに、収入証明資料を提出すると、後で泣きをみることにもなりかねません。様々な理由を付けて、収入資料を出さないというのも一つの方法でしょう。

 例えば、義務者が離婚時合意で決めた養育費を支払っているのに、権利者が算定表からするともっともらえるはずだと養育費増額の申立をしてきたような場合、義務者の方から進んで収入資料を提出する必要はありません。

 前にも述べましたが、養育費分担額は、当事者間の合意があればそれでもう確定なのであり、合意がない場合に初めて算定表等で定める必要が生じるのです。ですから、上記申立は、合意した額よりも、算定表の額が優先すると勘違いしたものにすぎないのです。

 とすれば、こんな申立は、本来、門前払いされなければなりません。ただ、全く認められる余地がないかというと、そうではなく、合意があっても、その後の経済的事情等の著しい変化によって、養育費を増減すべき場合があるのです。当事者間の合意は最も尊重すべきですが、合意後に、一方又は双方の収入の著しい増減により、その額で合意した基礎が崩れるような場合、そのままの額を維持するのはむしろ不公平ということもあるでしょう。

 しかし、そういった著しい事情変更による額の変更は、例外的に認められるにすぎないので、本来、合意に反する申立をする側が立証すべきものです。それを、申立てられた方が、わざわざ、合意時という過去の収入資料を取り寄せ、現在の収入資料と比較してくださいと、そこまで立証に協力してやる必要などないはずです。

 では、収入を証する資料を一切出さないとその後どうなるのでしょうか。一つには、全く収入額が不明なので、賃金センサスといって、全労働者の平均給与額のようなもので決めるという方法があります。もっとも、これは、年収額にして500万円程度にとどまるため、例えば、それより遙かに高額の収入を得ているが、詳細な額が判明しないという場合などに不都合が生じます。

 そこで、そういった場合、裁判所がどうしても収入資料が欲しいと考えれば、義務者の勤務会社等に対し、収入の報告を求めることが考えられます(家事審判規則8条)。また、家事審判事件について、民事訴訟法に定める文書提出命令の規定(民事訴訟法223条)が準用されるか(家事審判法7条、非訟事件手続法10条)が争われた事案において、これを肯定した裁判例があります(大阪高決平成12年9月20日)。

 ここからすると、本来、相手方が立証責任を負うべき性質の事例だとしても、収入資料を出さないことで、裁判所が上述したような法的措置による資料収集に乗り出す気配があるなら、観念して提出した方が無難といえるかもしれません。