1 はじめに

 こんにちは、弁護士の平久です。

 今回は不貞行為について訴えられた場合の主張についてのお話です。

 事案として、例えば、あなたが女性であるとして、既婚男性と不倫関係にあった場合に、その男性の妻から慰謝料請求された場合を想定してみましょう。

 この場合、あなたとしてはどのような主張をすることが考えられるでしょうか。

2 破綻後の不貞であるとの主張

 一つ目は、不貞行為が行われた当時、既に夫婦の婚姻関係が破綻している状態にあったとの主張です。

 最高裁も、

「甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となる・・・のは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。」(最高裁判決平成8年3月26日民集50巻4号993頁)

と判示し、このような場合には、不法行為責任を負わないとしています。

 そこで、あなたとしても、相手の男性と不貞関係を開始したときに、既に相手方夫婦が別居をしているとか、離婚調停を行っているなど、相手方夫婦の婚姻関係が破綻しているという事情がなかったか検討してみることが必要となると思います。

3 婚姻共同生活の平和が害されなかったとの主張

 不貞行為を行うとなぜ不法行為責任を負わなければならないかというと、不貞行為が婚姻共同生活の平和を害するからということが一つの答えとなります。

とすれば、不貞行為によって婚姻共同生活の平和が害されなかった場合には、不法行為責任が否定される可能性があります。

 裁判例にも、不貞行為により、夫婦間に「格別の風波が生ぜず不和が醸成されず、かつ、右不倫関係発生時から現在まで、終始円満な夫婦関係が維持されていて、原告(妻)及びその子も、訴外人(夫)を宥恕し」、「夫婦、若くはその家族関係を危機に陥れ、若くはこれを破壊する如き格段の事情の生じていないことに加え、」夫と不貞相手の女性の責任が等しいこと、不貞相手の女性から夫に対する慰謝料請求が棄却されたことなどの事情を考慮し、「信義則、若くは公平の観念にてらし、・・・本件に限り、原告(妻)に、損害賠償債権の発生を認容するは当を得ないものと解するのが相当である。」と判示したものがあります(山形地裁判決昭和45年1月29日判時599号76頁、括弧内は筆者)。

 そこで、妻が不貞行為を知った後、相当期間に渡って何も不貞を責めるような言動を取ってこなかったという事情や、夫婦間にその後子どもが生まれたという事情など、このような主張を展開することが可能な事情がないかを検討すべきでしょう。

 次回も、不貞行為を理由として損害賠償請求をされた場合に考えられる主張を検討していきたいと考えています。

弁護士 平久真