前回は、婚姻無効について説明いたしましたので、その延長として、またこれと対比しながら、今度は離婚無効について少し触れてみたいと思います。

 離婚無効については、婚姻無効について規定した民法742条のような条文がありません。ただ、総則の無効に関する規定を適用すべきではなく、婚姻の無効に関する民法742条を類推適用すべきものと考えられています。

 したがって、離婚の無効原因は、離婚意思の欠如と離婚届の不提出となりますが、後者については、届出がなければ、そもそも離婚の効力は生じえないので、無効以前の離婚不成立というべきものです。

 とすれば、離婚無効とは、婚姻無効同様、離婚当事者が離婚意思を欠いていた場合を意味することになります。

 もっとも、婚姻意思については、社会通念上、夫婦と認められる生活共同体の創設を真に欲する意思というように実質面に着目した意思まで要求されていました(最判44年10月31日)。

 これに対し、離婚意思については、法律上の夫婦関係を解消する意思があれば足りるとし、実質的に夫婦と認められる関係の解消を欲する意思までは要求されていません(最判昭和38年11月28日)。とすると、何ら実質面を考慮せず、単に法律上婚姻という関係にあるのを、もうやめましょうということでよいわけであり、それはすなわち離婚届を出す意思があれば足りるといえるのです。

 以前、社会通念上夫婦と認められる実態がありながら婚姻の届出をしていないだけの男女関係は「内縁」として、婚姻に準ずる法的保護があると説明しました(準婚理論)。このことから、いったん、ある男女が婚姻関係を選んだとしても、その後、事情の変化により、やはり内縁関係の方がよかったとして、法律上の婚姻関係だけを解こうとするのを否定する理由はないとの価値判断があると思われます。

 したがって、例えば、債権者の強制執行を免れるための離婚であっても、法律上の婚姻関係を解く意思はもちろんあるので、離婚意思を欠くことにはなりません(最判昭和44年11月14日)。何も、完全に関係を切ってあかの他人同士になる意思なんてなくてもよいわけです。同様に、生活扶助を受けるための離婚も(最判昭和57年3月26日)、氏を変更するための離婚も有効となるわけです。

 また、当事者に意思能力がない場合、錯誤による場合も、離婚意思がないものとして無効となります。なお、詐欺、強迫による離婚は、離婚の取消原因となりますが(民法764条・747条)、強迫が自由意思を奪う程度にまで至っていれば、無効となると解されています。

 次に、離婚無効について、どのような手続をとればよいのかを説明します。

 いったん受理された離婚を無効とするには、必ず、審判又は判決をえなければなりません。そして、いきなり離婚無効の訴えを提起することはできず、まず、調停を申し立てなければなりません(家事審判法18条)。

 これらの点は、婚姻無効の場合と同様です。家事審判官は、必要な事実調査を行い、調停委員の意見を聴いた上で、正当と認めるときに離婚無効の審判をすることになります(家事審判法23条2項、1項)。

 たとえ、調停の中で、離婚の無効原因について当事者間に合意が成立したとしても、これを調停調書に記載して終わりにすることはできません。

 前述したように、必ず、審判か判決を経なければならないのです(家事審判法21条2項)。この点は、一般的な調停手続と異なるため、注意が必要です。