1 はじめに

 こんにちは、弁護士の平久です。
 今回は離婚と氏についてのお話です。

 婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、離婚によって婚姻前の氏に復することになります(民法767条1項、771条)。しかし、復氏した夫又は妻が、離婚の日から3カ月以内に、戸籍係に届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができます(民法767条2項)。これを婚氏続称と言います。

2 婚氏続称後に、婚姻前の氏に変更する場合

 では、一旦婚氏続称の届出をした後に、婚姻前の氏に戻ることはできるのでしょうか。

 戸籍法107条1項は「やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。」と規定しており、家庭裁判所の許可を得れば行うことはできます。

3 「やむを得ない事由」について

 この「やむを得ない事由」については、

①婚氏続称の届出をした後、いまだその氏が社会的に定着する前に婚姻前の氏への変更を申し立てたこと
②申立てが恣意的ではないこと
③その変更により社会的弊害を生ずるおそれのないこと

が条件となっているようです(東京高裁判決昭和59年8月15日)。

 しかし、①については、離婚後10年以上経過してから婚姻前の氏への変更を申し立てた事案で、「離婚以来一〇年以上の日時の経過により、婚氏「甲野」が抗告人の姓として、ある程度、社会生活上定着していることを否定することができない。」と述べつつも、父母と同居しているのに自分だけが「甲野」姓であり、他人にその説明をするのが煩わしいこと、郵便物が「甲野」姓の別人の家に配達されることが度々あったことなどの日常的な不便・不都合を理由に、「やむを得ない事由」があるものと認めた高裁決定があり(大阪高裁平成3年9月4日決定判例時報1409号75頁)、比較的緩やかに判断されています。

 ②については、変更の必要性があるかが重要となり、上記裁判例のように、離婚後、実父母と同居していることや、家業を継ぐことになったこと、実際に既に婚姻前の氏を使用して生活していることといった理由で認められています。

 ③については、婚氏が定着せず、すでに婚姻前の氏も使用して活動している場合などに、社会的弊害がないと判断されています(広島高裁昭和62年1月19日決定)。

弁護士 平久真