皆様、こんにちは。

1 イントロ

 前回は婚姻費用(養育費)と学費の関係についてお話しました。
 今回は、学費の他に婚姻費用(養育費)の算定の際に争われることがある事情を何点かみていきたいと思います。

2 住宅ローンと賃料

 (1)支払いの名目が住宅ローンにしても賃料にしても、支払っている方としては、住まいの家賃を払っているという感覚があると思われます。

 そのため、例えば、婚姻費用の算定の際に、婚姻費用(養育費)を負担する配偶者(以下「義務者」といいます。)が「こっちが家賃分を負担しているのだから、その分婚姻費用として支払うべき金額から減額すべきだ。」と主張してくることがあります。

 確かに、住宅ローンあるいは賃料とは別に婚姻費用(養育費)を負担せよと命ぜられる側は、過大な負担を強いられる上、婚姻費用(養育費)は生活費を含むと言われていることから二重払いになっているという不公平感を抱いています。

 (2)それでは実際に上記の主張は通用するのでしょうか?

 結論的には通用しうる主張です。ただし、義務者が住宅ローンを支払っているのか、家賃を支払っているのかで結論に差異が生じる可能性はあります。

 住宅ローンの場合、家賃の支払いという側面だけでなく、最終的に支払いを終えると購入者(たいていはローンの支払い義務者ですが。)がローン及び抵当権の付いていない物件を取得することができるという財産形成の側面があるのです。これに対して、賃料の負担は生活費の一部として支払われるべき金額を代わりに払っているということになります。

 したがって、家賃の支払いは婚姻費用の支払いに先行して生活費を負担していると言いやすく、婚姻費用の算定の際に控除されるべきという主張は通りやすいでしょう。他方で、住宅ローンの支払いは上述のとおり家賃以外の要素を兼ね備えているので、婚姻費用から支払額を控除することには慎重であるべきで、住宅ローンの支払額の一部を控除するという算定方法となる可能性があります。

 なお、自動車ローンについて、婚姻費用を求める配偶者(以下「権利者」といいます。)も負担すべき場合には、婚姻費用から毎月のローン支払額を控除すべきと判断した事例があります(仙台高裁平成16年2月25日決定)。権利者も自動車ローンを負担すべきとされた理由については明らかにされていませんが、おそらく権利者側も連帯債務(もしくは連帯保証)を負っていたのか、自動車を相当程度利用していたのではないかと思われます。

3 面会交流に応じない権利者

 (1)最高裁事務総局家庭局が親子の面接交渉を「面会交流」と呼称するようになりました。

さて、面会交流に応じてくれない、すなわち、子供に会わせてくれない権利者に対して、義務者が「子に合わせてくれない限り婚姻費用(養育費)は払いたくない。」と主張することがしばしばあります。果たしてこの主張は通るのでしょうか?

 (2)実務上、面会交流と婚姻費用(養育費)の支払いは引き換えになされるものとは考えられておりません。売買契約などとは異なります。もらう側の立場を考えるとわかるのではないかと思います。お子さんが一方の親に会う会わないに関係なく、日々生活費が発生し続けています。お子さんの生活が、親に会えるか会えないかという婚姻費用の義務者の主観的な満足感で左右されかねないという状況は合理的であるとは言い難いですよね。

 裁判所からなされる説明で多いのは「面会交流は婚姻費用(養育費)の調停や審判とは別の手続で求めることができますし、必要に応じて審理もいたします。どうしてもお子さんに会いたければご自分で手続を申し立ててください。」というパターンです。つまり、婚姻費用(養育費)の算定には原則的に関係ないから取り合いません、という意味です。

 実際、お子さんとの面会交流させない権利者に対して、義務者から婚姻費用の分担を求めることが権利濫用である、あるいは婚姻費用の金額を下げるべきである、等といった主張がなされることがあります。しかし、裁判所は今のところそのような主張には応じない様子です(前掲仙台高裁決定、那覇家庭裁判所平成16年9月21日審判)。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。