そもそも自由に消費できるから自宅に持ち帰ってもいいのでは?

 次に、公衆トイレのトイレットペーパーはそもそも利用者が自由に費消してもよいものであるから、持ち帰って自宅等で利用してもよいのではないのか、という点についてご説明します。

 窃盗罪は、他人の財物を「窃取」した場合に成立します。
 ここでいう「窃取」とは、他人の占有する財物を、「占有者の意思に反して」、その占有を侵害し自己又は第三者の占有に移転させることをいうと考えられています。
 要するに、他人の物を「占有者の意思に反して」持ち去ったら窃盗罪が成立し得る、ということです。

 公衆トイレに常備されているトイレットペーパーは、本来、当該公衆トイレを利用する者が、当該公衆トイレにおいて用を足す際に使用するために(=占有者の意思)、当該公衆トイレの管理者(=占有者)が備え置いたものと考えられます。

 そのため、当該公衆トイレを利用する者が当該公衆トイレにおいてトイレットペーパーを使用することは、占有者(=当該公衆トイレの管理者)の意思に反しないため、「窃取」したことにはならないと考えられます。
 他方で、当該公衆トイレで使用するのではなく自宅等で利用するためにトイレットペーパーを持ち帰ることは、占有者(=当該公衆トイレの管理者)の意思に反することになりますので、「窃取」したといわれてしまう可能性があります。
 この他にも、転売目的でトイレットペーパーや備品等を持ち出すことも「窃取」に該当すると考えられます。

トイレットペーパーに「財物」性が認められれば窃盗罪の可能性も

 以上のとおり、公衆トイレのトイレットペーパーを持ち帰ってしまうと、窃盗罪に問われてしまう可能性があります。

 もっとも、窃盗罪の客体となる「財物」は、「刑法上の保護に値する物であること」が必要であると考えられています。
 そのため、当該物が、社会通念に照らし何らの主観的客観的価値を有しない又はその価値が極めて微小であり、刑法上の保護に値しないような場合には、「財物」に該当しない(窃盗罪が成立し得ない)と考えられます。
 裁判例では、被害者のポケットから「ちり紙13枚」を抜き取った事案において、当該ちり紙13枚には破損や汚損があることやその形状、品質、数量、用途等に鑑みれば、刑法上の保護に値しないとして、「財物」性が否定されたことがあります(なお、当該事案では窃盗未遂罪の成立が認められました)。

 公衆トイレのトイレットペーパーについても、その「財物」性が問題となることもあると思われます。
 たとえば、既に大部分(9割程度)が費消されているロール状のトイレットペーパー1個を持ち帰った場合だと、客観的な価値が極めて微小であり、刑法上の保護に値しないとして、「財物」性が否定される余地があるかもしれません。
 他方で、新品のトイレットペーパーを持ち帰った場合であれば、客観的な価値が極めて微小であるとはいえず、刑法上の保護に値する物であるとして、「財物」性が認められる(窃盗罪が成立し得る)のではないかと思われます。