- A.
- 道路に落ちている現金やカード等が入った財布を拾って持ち帰ってしまった場合、「占有離脱物横領罪」(遺失物等横領罪ともいいます)という犯罪が成立する可能性があります(刑法254条)。
身分証明書等によってその財布の持ち主が判明しなかったとしても、同様です。
占有離脱物横領罪の刑罰は、「一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料」です。
また、その財布が落ちている場所や落とした時期、持ち主の所在等の諸般の事情によっては、占有離脱物横領罪ではなく、より重い犯罪である「窃盗罪」が成立する可能性もあります(刑法235条)。 窃盗罪の刑罰は、「十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」です。
1 どのような犯罪になりうるのか
道路に落ちている財布は、その外観からは、「誰かが落としたもの」なのか、それとも「捨てられたもの」なのか等は判然としません。
特に、財布の中にお金やポイントカード等は入っていたとしても、身分証明書等、持ち主が分かるような情報が記載された物が入っていない場合には、「誰の所有物」なのかも判明しないことが多いです。
そのような場合に、「持ち帰って自分の物にしても、どうせバレない」等と考えて、財布を持ち帰ってしまおう…と考えてしまうことがあるかもしれません。
しかし、それは以下のような犯罪になる可能性があります。
⑴ 占有離脱物横領罪
路上に落ちている物は、「その物をもともと占有していた者(=多くの場合、所有者)の占有から離れた物」、すなわち占有離脱物に該当する場合が多いです。
そのため、その物を持ち帰る(=横領する)と、占有離脱物横領罪(遺失物等横領罪ともいいます)が成立する可能性があります(刑法254条)。
占有離脱物横領罪の刑罰は、「一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料」です。
その物をもともと占有していた者や所有者が誰であるのかが判明しなくとも、この犯罪は成立し得ます。
そのため、拾った財布の持ち主が分からなくても、それを勝手に持ち帰ってはいけません。
路上に落ちている財布のほかにも、たとえば、電車に置き忘れられたカバン等についても、同様に占有離脱物横領罪が成立する場合があります。
⑵ 窃盗罪
上記のとおり、占有離脱物横領罪は、「もともとの占有者の占有から離れた物」を持ち去った場合に成立します。
これとは異なり、未だ「占有者の占有を離れていない」(=占有がある)と評価される場合には、占有離脱物横領罪ではなく、より重い犯罪である「窃盗罪」が成立する可能性があります(刑法235条。刑罰は「十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」)。
たとえば、持ち主が財布を「落とした」のではなく、「意図的にそこに置いたものの失念して立ち去ってしまった」ような場合には、そもそも未だ持ち主の占有から離れていないとして、これを持ち去ると窃盗罪が成立する可能性があります。
判例では、バス停に並んでいた被害者がバスを待つ間にカメラを脇に置き、そのままカメラを忘れてバスの列を20メートルほど進んでいったところ、5分後にカメラを置き忘れたことに気がついたが、既にカメラが持ち去られていたという事案で、未だ占有を離れていないとして窃盗罪の成立を認めたことがあります(最判昭和32年11月8日刑集11巻12号3061頁)。
また、今回のご質問のように財布が道路に落ちていたケースとは異なりますが、たとえば、宿泊しているホテルの中の通路等に落ちている財布を持ち去ってしまった場合にも、窃盗罪が成立することがあります。
どういうことか説明すると、そもそも刑法上は、「占有者」と「所有者」という概念が区別されており、必ずしも「占有者=所有者」となるとは限らず、その物の所有者以外の者が、その物を占有することも珍しくありません。わかりやすい例だと、自分の所有している本を友人に貸すと、その本の所有者は自分ですが、占有者は友人ということになります。
このことは「貸し借り」といった場合に限らず、仮に所有者(=持ち主)としてはそこに物を置き忘れて去って行ったとしても、その人とは別の人に別途、占有が認められることがあります。その場合にその物を持ち去ってしまうと、窃盗罪が成立し得ることになります。
判例では、旅館の宿泊客が旅館のトイレに置き忘れた財布について「旅館主」がその占有者であるとした例(大判大正8年4月4日刑録25輯382頁)や、ゴルフ場のロストボールについて「ゴルフ場管理者」がその占有者であるとした例(最決昭和62年4月10日刑集41巻3号221頁)等があり、この場合に財布やロストボールを持ち去ると窃盗罪が成立し得えます。
2 落とし物を拾った際の適切な対処法
以上のとおり、たとえ持ち主が判明しなくとも、落し物を勝手に持ち去ってしまうと、占有離脱物横領罪や窃盗罪等が成立する可能性がありますので、落し物を拾っても持ち去らずに交番や警察署へ届けるようにしましょう。
たとえ紛失届や遺失物届が出ていないからといって、そのまま持ち帰ってよいということにはなりません。
もし落し物を勝手に持ち帰ってしまった場合、被害者が被害届を出すと、警察が捜査を開始し、落し物を持ち去った人物が突き止められることもあります。
落し物を持ち去ってしまった方、警察から連絡が来た方など、今後の対応にお困りの方はぜひ弁護士にご相談ください。