回答
賃貸人が賃借人に対して損害賠償責任を負担することになる根拠は、大きく分けて2種類です。1つ目は、不法行為責任、もう1つは、債務不履行責任です。この2つの責任の根拠は、不動産管理におけるトラブルと切っても切れない関係にあり、今後もよく登場すると思われますので、今回の事例に即して説明を加えながら、相談内容を検討していきたいと思います。
まず、不法行為責任については、契約関係があろうがなかろうが、故意または過失によって、第三者の権利を侵害して損害を与えた場合に成立します。今回の事例でポイントとなるのは、「故意または過失」の有無です。
故意とは、「わざと」損害を与えるということですが、相談内容では貸主の方が大量の蟻を入居中の部屋へ放ったわけではありませんので、「故意」があったとは言えないでしょう。
次に、過失とは、日本語で「不注意」という意味ですが、今回生じた出来事が不注意によるものか否かということは状況や人によっても評価が異なるでしょう。そのため、裁判所は、通常の平均的な人物であれば、予見又は回避できたにもかかわらず、それを防がなかった場合に過失を認めるという判断をしています。
今回の相談によれば、初めての事態であり、駆除業者の意見としても原因が不明ということであり、賃貸物件の貸主としてこれが予見できたとは考え難く、過失があったともいえないと考えられます。
結論として、故意または過失のいずれも認められないため、不法行為責任を負担するとはいえないと考えられます。
最後に、債務不履行責任ですが、これは、故意または過失により、契約上の義務に違反することによって、契約の相手方に損害を与えた場合に、賠償責任を負担することになりますが、この場合も、故意又は過失が必要であるため、今回の相談内容では、債務不履行責任も負担しないと考えられます。
ただし、賃貸借契約の賃貸人は、「借主に物件の使用に適切な状態で使用させる義務」を負担していますので、仮に、連絡を受けてから駆除までの時間が遅延し、損害が拡大した場合などには、損害に発生を認識しつつ、修繕すべき義務を履行せずに損害を発生させたものとして損害賠償責任を負担する可能性があるため、早期に対処したことは適切であったと言えるでしょう。