昨今、物流業界においては、男性だけでは配送人員などの確保が難しくなっていることを背景に、女性従業員を増員する企業が散見されます。「男性の職場」というイメージが強い物流業界ですが、今後は物流業界における女性の活躍もますます拡大していくものと考えられます。

 事業主が女性を雇用するときに注意する事項は、男女で差別的な取扱いをしてはならないことなど多々ありますが、今回は、従業員のセクシャル・ハラスメント(以下、「セクハラ」といいます。)の問題を取り上げたいと思います。

 雇用機会均等法11条1項は、事業主は、セクハラの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないという、事業主に対する「措置義務」を定めています。このことから、実際にセクハラ被害が起こってしまった場合、セクハラの直接の加害者が被害者に対して損害賠償責任を負うのは当然ですが、事業主も被害者に対して当該義務違反に基づく損害賠償責任を負う可能性があるので注意が必要です。

 それでは、事業主は具体的にどのような措置を講じる必要があるのでしょうか。これについては、少なくとも厚生労働大臣の定める「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平18厚労告615号)に従った対応をする必要があります。

 同「指針」では、①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発、②相談(苦情を含む。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるセクハラに係る事後の迅速かつ適切な対応、④相談者のプライバシーの保護、不利益取り扱い禁止の周知・啓発などの観点から必要な措置が10項目定められています(なお、「指針」の全文は厚生労働省のホームページで閲覧することができます)。

 広島高裁平成16年9月2日判決は、セクハラ防止について適切な措置を講じていなかったこと、公的機関からセクハラがあるとの指摘を受けた後も実際にセクハラを防止する強力な措置をとらなかったこと等を考慮し、会社の不法行為責任を認めた上で、雇用機会均等法が施行され、「指針」が適用されるに至った日以降、使用者としてはセクハラ防止のための適切な措置を講じることがいっそう強く要請されると述べており、事業主がセクハラの責任を負わないために、「指針」に従った措置をとることが極めて重要といえます。「指針」に従った措置をとられていない事業主は、早急に対応をする必要があると考えられます。とるべき措置の内容は多岐に渡りますので、弁護士に相談されることをお薦めいたします。