こんにちは。

 先日、海上自衛隊の護衛艦「たちかぜ」におけるいじめ問題につき、資料が存在する旨内部告発した事務官が懲戒処分手続きに付されている旨の報道がなされました。たしかに、内部の情報を外部に流出させることは、形式的には懲戒事由に当たりうる就業規則もよくあるものと思われますが、社会正義のために不正を暴く目的で内部告発がなされた場合にも、懲戒処分がなされるとすれば、内部告発者は懲戒を恐れてしまい、ひいては内部の不正が明るみに出る機会が減ってしまうと考えられます。

 そこで、今回は、内部告発をした場合、懲戒処分に付されてしまうのかといった点について、ご説明したいと思います。

 まず、内部告発は、会社等の秘密を意図的に暴くものであることから、それにより会社等に損害を与え得るものであることから、不法行為(民法709条、710条等)に基づく損害賠償責任を負い、又は名誉棄損罪(刑法230条)等の罪責を問われかねないものです。

 そのため、内部告発を正当化するためには、違法性阻却事由が必要となります。

 違法性阻却事由の判断要素としては、①公益目的かどうか、②告発の手段・態様が相当なものであるかどうか、③告発内容が真実又は真実と信じるに付き相当な理由があるかどうか、といった観点から判断することになります。

 また、内部告発を保護するものとして、公益通報者保護法があります。同法によれば、個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保等にかかわる法律(刑法や金商法等の約400の法律)に規定されている罪に該当する事実に関し、一定の要件を満たした場合には、会社等は、告発者に対し、一切の不利益を与えてはならないとしています。一定の要件とは、基本的には、①不正の目的ではないこと、②違法行為等が存在すると信ずるに足りる相当な理由があること、であり、通報先が、会社等や行政庁等以外の不正防止等に必要な第三者(マスコミ等)である場合には、会社等や行政庁への通報では足りないことが必要とされます。

 また、内部告発に関しては、内部告発者が自己の管理下にない会社内の情報にアクセスして告発することも考えられます。そのような場合には、当該証拠の重要性・関連性、証拠収集の方法や利用方法、管理方法、当該開示により被る第三者の不利益等を考慮して、違法性が阻却されるか判断されることになります。

 海自の例では、内部告発者が、防衛省見解では破棄されたとする原本が存在する旨を、防衛省の公益通報窓口に通報したものの、受け入れられなかったことから、東京高裁に存在する旨の陳述書を提出したものです。

 このような状況下で、公益通報者保護法等が適用されるのか、今後の経過が注目されるところです。

弁護士 中村 圭佑