昨今、従業員の方やそのご家族が、従業員のメンタルヘルス不調の原因は会社の業務に起因するとして、会社に対して労災申請の証明を求めてくるケースが増加しており、このような要求について、会社としてどのような対応をした方が良いのかというご相談を受けるケースが増えています。

 例えば、従業員の方が、長時間労働や上司のパワハラが原因でうつ病や適応障害になった旨主張してきても、会社としては、残業は多少あるものの、それほどの長時間労働はなく、また、上司の指導はあったものの、パワハラはなかったという認識の場合、その認識にずれがあり、会社としては労災申請の証明に応じたくないというケースが見受けられます。

 そもそも、労災保険法施行規則23条2項により、「事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない」と定められています。そのため、従業員の方から労災申請をしたい旨の主張がなされているにもかかわらず、その主張を無視することは避ける必要があります。

 とはいえ、事実関係の認識自体に大きな違いが生じているような場合、会社としても従業員の方が主張する労災申請の証明をそのまま受け入れることはできないこともあり、このような場合、会社としての意見もしっかりと主張しておく必要があります。また、このような意見を申し出ることができる制度も存在します。具体的には、労災保険法施行規則23条の2において、「事業主は、当該事業主の事業に係る業務災害及び通勤災害に関する保険給付の請求について、所轄労働基準監督署長に意見を申し出ることができる」と規定されています。

 そこで、会社としては、従業員の方のメンタルヘルス不調に関連する労災申請の主張を無視するのではなく、争う余地のない従業員の氏名、住所、職種及び平均賃金等は認める一方で、会社と従業員の方との間で事実関係について認識の違いがある「災害の原因及び発生状況」については、会社側の意見を記載した書面を別途、労働基準監督署長に提出するという対応が考えられます。