当職の前回の記事にて、スポーツの試合は著作物には当たらないということを述べさせていただきました。
 (前回の記事はこちら:「スポーツの試合の著作物性」

 では、そのようなスポーツの試合をテレビ等で放送するための「番組」(テレビ等で放映するために記録媒体に記録された映像)も、著作物にはあたらないのでしょうか。

 これについて、裁判例上、スポーツの試合を撮影・編集した動画映像は、映画の著作物(著作権法10条7号)にあたることが認められています(総合格闘技大会UFCの試合を撮影した動画映像に著作物性を肯定したものとして、東京地裁平成25年5月17日判決。)。

 著作物にはあたらないものでも、動画として撮影すれば、その結果作成された映像は著作物に該当するという裁判例の結論に、違和感を覚える方がいるかもしれません。しかし、たとえば「富士山の写真」を考えたとき、富士山は人が創作したものではなく、被写体自体に著作物性はないと考えられますが、富士山を被写体とした写真には著作物性が認められる場合があり、これに異論を唱える方は少ないのではないかと思います。それは、写真の場合、被写体の選択や構図、光(あるいは影)の入れ方、または、撮影した写真の加工方法等といった様々な面で創意工夫が可能であり、そのような創意工夫の結果作出された写真の中には、単に自然の風景である富士山を再現したものという以上に、作成者の創作的な表現として保護されるべきものがあるという感覚があるからではないかと思われます。このことは、同じく被写体の選択や構図等において創意工夫が可能な映像(動画)の場合であっても異なるところはないと考えられます。

 上記裁判例においても、上記UFCの試合を撮影した動画映像を映画の著作物として認めた理由として、当該映像は、撮影者あるいは編集者が試合の臨場感等を伝えるものとするべく、被写体の撮影方法等に工夫が凝らされ、また、その編集や加工により試合を見る者にとって分かりやすい構成が工夫されているといえることから、思想又は感情を創作的に表現したもの(著作物の定義、著作権法2条1項1号。)と認められる、ということを挙げており、著作物該当性を判断する方法としては妥当なものではないかと考えられます。

 よって、スポーツの試合自体には著作物性が認められないとしても、それを撮影した「番組」に著作物性が認められるということは、何ら不合理な帰結ではないと考えられます。このように、スポーツの試合の著作物性に関わらず、スポーツの試合を録画した中継映像には「映画の著作物」として著作権が発生する可能性がありますので、当該映像の取り扱いには十分に注意をしてください。

 なお、スポーツの試合の生中継の場合にも、録画の場合と同様に、その映像に著作物性が認められるかという点については、「映画の著作物」の「物に固定されている」こと(著作権法2条3項)という要件との関係上、法解釈上の争点となりえますが、裁判例上、生中継の場合でも、それが同時に録画されているような場合には、中継映像が映画の著作物に当たることが認められていますので(東京地裁平成6年3月30日判決)、生中継か録画かを問わず、著作権侵害を伴う態様でのスポーツ中継映像の利用は行わないようにすべきと考えられます。